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〘162〙羽衣天女
しおりを挟む夜空に浮かぶ数え切れない星のように、地上では花町の電飾が光っている。
「溫治、指名がはいった。サザンカだ。」
「はいよ、哥さん。」
案内役の赤羅城は、ハルチカの体内領域を丁寧に開発した世話係である。夜鷹坂には三つの隠語があり、サザンカとは贔屓客を指す。つまり、性サービスをするさい、たっぷり尽くせという意味が含まれた。
控えの間で身仕度するハルチカは、夜鷹坂においては上級男娼の地位である。初めてアカラギの逸物で腰をゆさぶられた夜はひどく興奮して取り乱したが、客を相手にするさいは、至って従順な態度で応じている。楼主のタカムラいわく、ハルチカの境遇は、人肌を求めるようにできている……らしい。
右腕を負傷しているアカラギだが、その事実を知る関係者は、タカムラとヒシクラ、アダシノとハルチカだけである。お仕置き部屋で包帯を取り替えるアカラギに口止めされたハルチカは、秘密を共有することができ、不謹慎ながらうれしく思った。信頼を裏切るつもりはないが、無意識にアカラギの右腕へ視線が泳ぐ。
壺の間へ向かう廊下で、先に案内をすまされたキリコが、淫らな吐息を洩らしている。枕席の最中に発生する卑猥な物音は、ハルチカの緊張感を高めた。今夜もうまくやれるだろうか、粗相をしてしまわないだろうか、どんなことをされるのだろうという不安は、房事の経験に関係なくつきまとう。タカムラは、男娼と客人とのあいだに生じる温度差について、ある品書きを考えた。以前、すべての男娼から聴き取り調査をした結果をふまえ、品書きを定めることで、男娼側にも事前に心構えが可能となる。たんに、セックス目的の客がいちばん多いが、なかには性器の挿入に至らないケースもあり、料金の見直しも検討した。
数日後、タカムラの注文によりアダシノが用意した男娼の新しい衣装が納品された。休業日の午后、ひとりずつに決まった衣装を届けるアカラギは、ハルチカとエンジュの部屋で、会話におよぶ。
「これが枕席用の服? 着てみるか、」
そう云って、なんの恥じらいもなく裸身になるエンジュは、アカラギから受け取った服に着がえた。肌が透ける素材で織った特注品で、男娼ごとに生地の色も異なる。エンジュの服は、瑠璃の単色だ。上級男娼のハルチカとキリコの衣装は、曙染めになっている。複数の色の濃淡をつけて、裾の白地はそのままに、霞のようにぼかしてある。上の方ほど濃い色で、裾に行くにしたがって薄くなる。ハルチカの衣装は、上が紅から紫に変わる暈色で、太腿より下は肌が透けて見えた。裾はあまるほど長い。腰紐はなく、内側についた釦ひとつきりで、すぐに脱げる仕様である。ハルチカは、うしろ向きで袖を通してみた。
「へえ、おまえが着ると、天女みたいだな。」とエンジュ。
「ちょっと透けすぎじゃない? これじゃあ、なにも着ていないみたいだ……、」とハルチカ。
「云っておくが、そいつは男娼ごとの特注品だからな。これまでの高級な着物より、よほど価値は高いぜ。簡単に脱がせるなよ。」とアカラギがいう。
「脱がせるなって……、そんなの無理だよ。おれたちは男娼なのに……、ねえ、エンジュ?」とハルチカ。
「これなら全部脱がなくても、上も下も遊べるけどよ、素っ裸のほうが動きやすいよな。」と、大胆な発言をする。
「そうじゃなくて……、」と口ごもるハルチカに、アカラギは「機能性をよく考えて作られているからな。」と首をふる。確かに。生地が薄いため、まるでなにもまとっていないような軽さだった。
✓つづく
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