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〘141〙花ざかり
しおりを挟むハルチカは、うろたえた。アカラギによって案内された壺の間にいたのは、アダシノだった。
「シノさま……、」
「こんばんは、ハルくん。おあがり、」
「は、はい。失礼します。」
静かに障子戸をしめるアカラギは、立ち去らずに廊下へ待機する。その人影に勇気をもらい、ハルチカはアダシノと抱きあった。あの晩も、無理強いをされたわけではない。だが、紳士的なアダシノが、当初の雰囲気から一変し、タカムラと似てきたため、ハルチカのほうで危険信号が点滅した。
「あッ、あッ! ……んんッ!!」
体内領域に挿しこまれた指が動くたび、ハルチカの意識は遠のいてゆく。まぶたを閉じて従順に応じていると、アダシノが顔をのぞき込んできた。
「ハルくん、目をあけて。第二セッションにはいろうか。」
遊び人のような口ぶりだが、ハルチカは素直にしたがった。認めたくはないが、アダシノにひらかれる躰は、よろこびに満ち溢れている。断固として、身体反応は仕事のうちだとじぶんに云いきかせ、ハルチカはあえぎ声を洩らした。なんの惑いもなく上級男娼に躰をつかって汗をかくアダシノは、障子戸に目をやって、笑みになった。
「ハルくん、きみに不足はないよ。この先も飽きることはない。……延樹は、どうかな。私を極楽に連れていけるかどうか、しっかり確かめなければね。」
ハルチカをあえがせながら、他の男娼の名前を口にするアダシノは、綺麗な女を抱くよりも、男に刀身を挿れたがる好色だった。しくじる必要がないからだ。こちらが望まぬ妊娠を回避できる。とはいえ、財閥の息子として生まれた以上、跡継ぎにする子どもくらい、作っておかなければならない。由緒ある血筋に、養子という間に合わせは通用しない。力の抜けたハルチカを好き勝手に愉しんだアダシノは、口唇を少しだけふるわせた。
「……きみは、男にしておくのが勿体ないほど可愛いね。いつか、私だけのものにしたい。」
「……ハァハァ、……シノさま、今、なんて? ……ハァハァ、」
「眠りたまえ。ご苦労だった。」
そっと髪を撫でられたハルチカは、云われたとおり、ゆっくり眠りに落ちた。スーツを着なおして部屋をでるアダシノは、廊下の柱に人影を発見し、くすッと微笑した。
「きみがエンジュかな? そんなところに隠れてないで、ここへおいで。」
もとより、エンジュの主人はアダシノである。タカムラによる品定めは、夜鷹坂で試用するための通過儀式にすぎない。ほぼ完成している二号店で楼主の立場となるアダシノは、アカラギとエンジュを引き抜いていく。必要な人材として選ばれたエンジュだが、下働きのエンオウに関心を示した。
「……あんた、余程の悪人だな。」
「ほう、どうしてそう見えるかな。私は良識をもつ大人だよ。」
「名前、アダシノって云うのか?」
「朱鷺士だ。正確にはね。紫野という。」
「シノ? へえ、いい名前だな。死のにおいがする響きだ。」
エンジュは無礼な口をきく。アダシノが何者であろうと、意に介さない態度である。正直者というよりは、勝気であり、逃げ腰をきらうキリコの姿勢と似ていた。どちらにせよ、アダシノの目に映る夜鷹坂の男娼は、大輪の花のように馨しかった。客人として味見できるうちは、野心を悟らせては不可ない。紳士的な容姿であっても欲は深い。まっとうな界を渡り歩く人間ほど、醜い感情にふりまわされ、心まで穢れてゆく。
勘がはたらくエンジュは、アダシノに近づこうとしなかった。数日後、帳場で中級男娼の指名料を払うアダシノに、ヒシクラは眉をひそめた。
✓つづく
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