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〘113〙内部調査
しおりを挟むタカムラによる定期面談の季節ではないが、六人の男娼が二階にある楼主の部屋に呼びだされた。それぞれ廊下に待機して、名前の順にひとりずつ入室する。いったい何事かと思ったハルチカだが、最初に面談を終えて出てきたキリコに、「そんなに青ざめて、笑わせないで。いくつか質問されるだけよ。」と揶揄われた。いちばん最後の列に、ヒョウエが立っている。名前を呼ばれたハルチカは、小さく手をふるヒョウエの姿に和みつつ、「失礼します、」といって、楼主と対面した。
タカムラとは、一月五日の夜に壺の間で性交渉したきり、顔は合わせていなかった。ふだんから夜鷹坂を留守にしてアカラギに雑用を押しつけることが多いが、いつのまにか帰宅しており、ハルチカは乗用車のエンジン音さえ聞かなかった。
長椅子に坐り、両手を膝のうえに載せると、ガラス製のサイドテーブルに肩肘をついて頬杖をするタカムラは、長い足を組んでハルチカを見据えた。
「壺の間での事例を調査している。虚偽は認めない。心して答えよ。」
「は、はい。」
「挿入回数の平均を述べろ。」
「え? えっと……、体位を変えて、二回くらいです。」
「中出しはされているか?」
「はい……、」
「自他ともに精液を飲まされたり、顔に浴びせられたことは?」
(モモコならば肯定だ)
「ありません……、」
「自慰をしろと云われ、実際にやってみせたことはあるか。」
「あります……。」
「そのあとは?」
「あと?」タカムラは平然と枕席での行為を掘りさげてくるため、ハルチカのほうで口ごもった。自慰という手淫ならば、タカムラに命令され、キリコの見ているまえでやり遂げている。この部屋の寝台で、アカラギに抱かれた記憶を睡眠薬の効果で封じられているハルチカは、楼主の激しい腰つきを思いだし、おちつかない気分になった。
「答えよ。自慰のあと、客は肛交におよんだか。」
「そ、それは、そうであったり、なかったりしますが……、」
ハルチカは嘘をついていない。利用客の半数以上は性交中に中出しをするが、自慰行為を要求して、男娼のイキ顔を見るだけで満足する客もいた。つまり、肉体関係には発展しない。前戯のあと挿入に移行せず、客自身が手淫を見せつけてくる場合もあった。いわゆる、視覚的な興奮のみを嗜好とする性癖の人種で、かならずしも性器を挿入することが性行為とは限らない。
「最後の質問だ。これまでの利用客で、優良と思われる男はいたか。」
「ゆうりょうって、なにがですか?」
まぬけなハルチカは問い返し、タカムラの眉が微かに吊りあがるのを見落とした。ことばの意味を理解するより先に、優良の基準がわからず、即座に判断できなかった。ハルチカがとぼけているふうには見えないため、タカムラは身をもって調教した。おもむろに腰をあげ、ハルチカの背後にまわると、いきなり項をわし摑んでくる。
「なッ!? なにを……、」
衣紋抜きした頸椎を五本指で絞めてきたかと思えば、肩越しにふり向いたハルチカに口唇を被せた。タカムラの気息が咽喉を通過すると、ハルチカの下腹部は、にわかに熱を帯びた。タカムラはハルチカの身体が反応するまえに口吸いをやめ、「どうだ?」と訊く。
「ど、どうって云われても……、ハァハァッ、」
舌こそ絡めてこないが、タカムラの呼吸をそっくり呑みこんで動揺するハルチカは、テツのように相性が一致しない客と、無条件で降伏してしまうカリヤとの枕席を思いだし、問われた内容を理解した。呼吸が乱れる最中、「い、いました」と過去形で白状した。
✓つづく
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