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〘63〙汚名返上
しおりを挟む週明けの定休日、珍しくハルチカのほうから楼主を訪ねた。
「ダンナさま、おはようございます。ハルチカです。」
扉の前に立って声をかける。「はいれ。」ということばに従って、気がすすまないながら「失礼します。」と挨拶を返すと、できるだけ静かに室内へ足を踏みいれた。
「お出かけですか、」
「介意わん。要件を聞こう。」
上質で光沢のある朱子織の黒いスーツに、高級そうな腕時計を嵌るタカムラは、ハルチカを一瞥すると、長椅子へ腰をおろした。いつまでも楼主の貫禄に怯えていられないハルチカは、キリッと顔をあげ、タカムラの正面に坐った。
数日前、使者の間に呼びだされたハルチカは、ヒシクラとの性交渉を強要されたが、楼主の思いどおりの結果には至らなかった。ヒシクラは、見た目こそ髭面で野太い声をしているが、ハルチカにとっては理解者のひとりであり、数少ない常識人である。いくら計算高い楼主の思惑とはいえ、信頼できる男を利用してまでハルチカを追いつめる必要があったのか。少なくとも、周囲の人間を巻き込んで、間接的な調教をされるくらいならば、楼主の腕に抱かれたほうがマシだと思えたハルチカは、これまで以上の覚悟をもって、タカムラとの会話に臨んだ。
「お願いがあります。これからは、ダンナさまが直接ご指導くだいませんか。なにもかも、あなたの云うとおりにします。」
「ならば脱げ。おれを口説きたければ、指摘される前に裸身になることだ。」
「きょうは、そんなつもりで来たわけじゃ……、」
「色仕掛けのひとつもできないのか。ふだんのおまえには興味もないが、名器であることは認める。」
タカムラは嵌めたばかりの腕時計を外してスーツの内ポケットにいれると、ハルチカのとなりに移動してきた。されるがままに応じていると、コンコンッというノック音が聞こえた。ハルチカは全裸で股をひらいていたが、タカムラは涼しい顔で「どうぞ。」という。あらわれた人物は、長椅子で淫らな姿になっているハルチカに目を留め、微かに眉をひそめた。
「アカラギか、」
すでに二本の指を挿入している楼主だが、何喰わぬ顔で聞き返した。
「おじゃまでしたか、」
「介意わん。提出物ならば、そこに置いていけ。」
「承知しました。」
アカラギも平然と会話する。ハルチカは衝撃のあまり意識が飛びそうになったが、トキツカサのときのように、第三者の登場に動揺しては、上級男娼として度胸が足りないと思い、わざと指を動かされても、素直に悦がってみせた。変化を認めた楼主は、ハルチカで性欲を発散する予定をやめ、身なりを整えるよう云いつけると、アカラギが持参した資料の黙読を始めた。
下腹部が熱い。ヒクヒクと収縮する交接口に途惑うハルチカは、タカムラの巨根を待ちわびていたかのような錯覚にとらわれたが、小袖の衿を合わせ、長椅子に坐り直した。
「おまえの自浄力を、ヒシクラに補ってもらう予定だったが、うまく作用しなかったようだな。……そんなに好きか、」
「……好き? お、おれは、夜鷹坂のみんな大事ですが……、」
タカムラは扉に視線を移すと、「はいれ。」という。立ち去ったはずのアカラギは、廊下に待機していた。声がかかり、ふたたび室内にもどる。気まずい空気が流れたが、タカムラは微笑して告げた。
「アカラギよ、性教育の追加と延長を命じる。今後、定期的にハルチカを壺の間で抱いてもらうが、前戯に時間をかける必要はない。かならず、性器を挿入し、中出しをすること。……以上だ。」
✓つづく
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