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〘58〙定期面談
しおりを挟む夜鷹坂では、人材流出の防止や現状を把握する目的を兼ね、楼主による面談が一年ごとに実施された。
定期面談の内容は運営の見直しにも活用されるため、不正行為の告発や人事評価など、娼館全体にかかわる問題を提起する機会となり、不安や悩みを解消してほしい相談者は、ふだんできない話をタカムラに聞いてもらうことができた。従業員の育成には本音を引きだすことが必須につき、その場しのぎの会話は通用しない。タカムラによる質疑応答は、少なからず、緊張感が漂った。
一階の大広間で採血を受けたあと、個別に楼主の部屋へ足を運び、まずは性病の検査がある。肛門周辺をこすって採取した分泌物や、うがい液などを、花町で性感染症を専門に扱っている内科へ提出する。検査のためとはいえ、タカムラの見ている前で採取を担当するアカラギに股をひらくハルチカは、「ふッ、ぅッ、」とこもった息を吐き、身体作用を必死にがまんした。アカラギが退室したあと、円卓をはさんで坐り、長椅子に腰をかけているタカムラと向き合う。男娼は丈の短い検査着を身につけているため、椅子に坐ると下半身が露出した。タカムラの視線を遮るには、両手で隠すしかない。ハルチカは重ねた指を(自然な動作のつもりで)膝に載せ、恥部を隠した。
タカムラは、円卓に並べた書類のなかから何枚かを手にして、これまでのハルチカの業績に目を通すと、本人確認の欄に名前を記入するよう差しだした。スーツの内側から高級品の万年筆を抜き取り、円卓に置く。壺の間での性交頻度はアカラギの報告により把握しており、日常における生活態度などは、帳場のヒシクラに監視と連絡を義務づけてある。従業員とは滅多に会話が発生しない楼主だが、夜鷹坂の現状はすべて熟知していた。
「……書けました。」
定期面談は二回目となるハルチカだが、楼主とふたりきりの空間は苦手だった。差しだされた書類に名前を書く指がふるえるため、文章を目で追う余裕などない。右手から万年筆がすべり落ちると、タカムラの足許に転がった。ハルチカは瞬時に青ざめ、「す、すみません!」といって、あわただしく椅子を立ち、土下坐でもするかのような姿勢で万年筆を拾った。床に膝をつけたまま顔をあげると、タカムラに腕を引き寄せられ、長椅子に押し倒された。
「……い、いやッ!」
検査着の紐を解かれて裸身にされるハルチカは、タカムラと性交する流れに困惑の表情を浮かべた。楼主の手つきには計算された勁さがあり、身がすくんでしまう。興奮して見境をなくす利用客と異なり、挿入中も圧倒的な支配力を肌で感じ取れた。
「お、お願い……、許して……、」
恐怖で咽喉が渇くハルチカは、硬張った表情でタカムラと見つめ合った。
「おまえは、どうにも女々しいな。上級男娼たるもの、相手に気圧されたら立つ瀬がないと思え。」
「……ダンナ……さま……?」
「おまえの欠点は、要改善事項だ。あす、使者の間でヒシクラを待て。アカラギでは手ぬるいようだ。……あやつに、おまえの雌豹の皮を剥がしてもらう。」
楼主がなにを云っているのか理解できないハルチカは、ヒシクラの名前を耳にした途端、ふっと、肩の力が抜けた。その反応を見て、相互関係を確信した楼主は、ハルチカの躰に検査着をもどすと、なにもせず面談を終了した。
使者の間とは、来訪した業者をとおす、洋風の応接室である。そんな場所でヒシクラを待つよう云われたハルチカは、どんな恰好をして行けばよいのかわからず、箪笥のなかの着物をひろげ、これでもないあれでもないという、無意味な時間を過ごした。
✓つづく
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