曙花町男娼夜鷹坂

み馬

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〘29〙特別配当

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「ほらよ、ハルチカの分だ。」

「なにこれ、」

特別配当ボーナスだよ。おめでとさん。」

 男娼として客と性交渉するようになった十八歳のハルチカは、あるとき、帳場のヒシクラから茶封筒を手渡された。

「ぼうなす?」

一昨日おとついの客で、十人目だからな。壺の間をになう男娼には、給料とは別口に楼主から報奨金がでる。その条件のひとつが客数だ。残念ながら、性交した回数は含まれない。ようは、おまえが相手にした人数が、特別配当の条件を達成したって話だ。」

「……ふうん、そんなのがあったんだ、」

「なんだ、無関心か? いちおう伝えておくが、次は三十人を目ざすんだな。尻穴ケツが痛かったら、おれが軟膏を塗ってやるぞ。」

「う、うるさい、エロい目で見るなッ、」

「エロくて結構。おれの逸物は現役げんえきだぜ。」

「わッ、どこ触ってんだ!?」

 着物の上から股坐またぐらつかんでくるヒシクラは、ハルチカの容姿を気に入っていた。手癖もあり、近寄らないにかぎる相手だが、帳場を仕切る立場上、適度に交流は発生する。

「や、やめろってばッ、……あッ、だめッ、」

「今なら誰も見てねぇよ。」

「こ、この……、あッ、ぁんッ、」

 内股に腕を差しこまれ、直に陰部を揉みこまれるハルチカは、ヒシクラの強引な指づかいに腰がふるえた。陰茎だけでなく睾丸をなぞる指が、いやらしく動く。

「なめらかなもんだな。生まれたての雛鳥ひなどりみたいな温度とやわらかさだ。……硬くなっても、せいぜいれた果実ていどだしな。おまえさんは、生来せいらいの受け身体質だな。どの道、こんな軟弱やわな逸物じゃ、女を満足させることはできやしない。」

「べつに、女なんてどうでもいい……、あッ、だめだってば……ッ、やだ、も……う、でちゃう……!」

 ヒシクラの指で強制的に射精を余儀なくされるハルチカだが、飽和状態からの放出は快感でもあり、「あぁんッ、」と声をあげ、勢いよく散った。すぐさま手ぬぐいで後始末される屈辱は、甘んじて受けるしかない。

「ハァッハァッ、……ほんっと、サイテー。あとで請求書を叩きつけてやる、」

「ああ、そうしたければそうしてくれ。いくらでも払ってやる。たくわえなら潤沢じゅんたくにあるからな。遠慮はいらん。」

「……腹立つ、」

「怒った顔も愛嬌があるな。年季が明けたら、おれの妻になるか?」

「つま? 冗談だろ。誰が手癖が悪くてサイテーな男のところにとつぐかよ、」

「アカラギでもか、」

「なんでにいさんの名前をならべるんだ、」

「おまえ、ラギを好いているだろう。隠す必要はない。見ればわかる。男娼には年季があって、かならず自由になる日がくる。そのとき、おまえはなにを希む? 楼主の権限がおよぶ範囲ならば、恩恵おんけいをこうむることができるぞ。」

 初耳である。ヒシクラいわく、男娼には年齢制限があり、満期を迎えると夜鷹坂から出ていくことが慣例かんれいらしい。それはヒシクラやアカラギも同様につき、ハルチカはひとりの人間として、好きな男に想いを告げる機会が残されていた。

「ここから出てゆける……、哥さんと……?」

「おまえさんと添い遂げるかどうかはラギ次第だが、希望は持っていたほうが、なにかと都合がいいだろう。万が一、おはらい箱にされても、おれが面倒をみてやるよ。」

 ヒシクラの告白など、ハルチカの耳には届かない。アカラギとふたりで花町を去っていく姿を思い浮かべたハルチカは、将来を考えたとき、貯金は多いほうが無難だと思った。老後の資金ではなく、アカラギとの未来のために……。


✓つづく
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