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〘14〙一月十日
しおりを挟むハルチカの性教育十日目、今夜の実習は曲取といって、入門書によると変態的な性行為である。
「それで、おれはどうすればいいの。」
「どうもしない。そのまま坐っていろ。」
アカラギは、壁ぎわに坐るハルチカへ顔を近づけると、おもむろに肩を引き寄せた。哥と慕う世話係の息づかいが、頬をかすめる。口づけをされるのかと思い、まぶたを閉じたが、実際はちがった。アカラギは、ハルチカの腰帯をゆるめ、袖から腕を引き抜くと、片方の乳首を指でつまんだ。
「え……、な、なに?」
「今夜は、徹底的に乳首をいじる。毎度云わなくてもわかっているだろうが、身体作用をがまんする必要はない。」
つまり、乳首の愛撫だけで勃起を誘発させることが、アカラギの目的である。執拗なほど胸に指を這わせてくるアカラギは、ハルチカの反応をみながら、春日坂の一件が脳裏に浮かんだ。男娼に、愛のことばをささやいてはならない。互いの関係は、あくまで他人。そう割り切ってこそ、悪縁を遠ざけることができる。
「……ん、ぁんッ、哥さ……ん……ッ、」
指で乳首を煽られるハルチカは、次第に腰を小さく揺らした。アカラギは乳首を口腔にふくみ、舌先で刺激した。やがて、もどかしくてたまらない気持ちになったハルチカは、下半身をすり寄せた。
「ね、ねぇ……、下も、さ、触って……?」
乳首を吸いあげるアカラギは、口唇の力を抜き、ハルチカの顔をのぞき込んだ。
「触ってほしけりゃ、触ってやるが、どうやらおまえは、快楽に弱すぎるフシがあるな。客を焦らして愉しませるくらいの余裕を、少しは身につけたほうがいい。」
云うなり、着物の上から陰部をにぎられたハルチカは、ゾクゾクッと、背中に電気が走った。
「やッ、いじわるしないで……ッ、」
「誰もが、男娼にやさしく接してくれると思うなよ。それに、暴力は禁止事項だが、娼館での性行為は合法なんだ。壺の間では、なにもかも相手次第ということを忘れるな。」
「つ、つぼって……?」
「枕席に侍る個室だ。飲食可能な壺坐敷は二階にあるが、そこでの性交は禁止されている。夜鷹坂は、食事と性交は別扱いとしているからな。男娼が客と寝るのは、三階にある壺の間だけだ。」
ひと月後、ハルチカが客を相手に股をひらく場所でもある。壺の間こそ、男娼の存在意義を強く実感できるうえ、夜鷹坂の価値を高める場所でもあった。アカラギは、ハルチカから着物を剥いで全裸にすると、布団に押し倒した。
「い、挿れるの?」
「まだ早い。云っただろう、もっと俺を愉しませてみろ。」
「愉しませるって、どうやれば……、」
ハルチカが首だけ横向けると、畳の上に、入門書が落ちていた。体位についてはそれなりに覚えてきたが、客を愉快にする方法など思い浮かばなかった。
「あッ!?」
気を取られているすきに、アカラギの手が太腿の内側を這い、陰茎に触れてから、臍のあたりを撫で、ふたたび乳首をつまんだ。
「……に、哥さん?」
「なんだ。」
「なんか……変……、」
「なにが変なんだ。」
いつになく、アカラギの表情が暗いように見えたハルチカは、起きあがろうとして制された。
「……哥さん、なにかあったの?」
アカラギは応えない。性行為の手ほどきする最中に、発狂して隔離されたという春日坂の男娼について考えた。もしハルチカが発狂しても、アカラギが責任に問われることはないが、願わくば健やかにと、そう思わずにはいられなかった。
✓つづく
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