曙花町男娼夜鷹坂

み馬

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〘12〙指切拳万

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「あッ、んッ! にいさん、哥さんッ、お、おれを……、こわしてぇ……!!」
 
 なにもかも初めての感覚を享受されるハルチカは、一瞬にして快楽の渦に溺れた。アカラギの首筋にしがみつき、何度も「好き、大好きッ」と口走る。その声は必死に聞こえるが、アカラギは無言で眉をひそめた。男娼となる青年に告白されたところで、承諾するわけにはいかない。だが、のぞみどおりに腰を突きあげ、ハルチカを昇天させた。つなげた躰を開放された瞬間、ハルチカは、なぜか置いていかれると思い、声をあげた。

「や、待って、いかないで! そばにいて……ッ、ハァッハァッ、」

「おちつけ。俺は何処どこにもいきやしない。」

「ほ、ほんとう? ずっと、そばにいてくれる?」

「約束する。」

「やく……そく……、じゃあ、指切りしなきゃ……、」

 ハルチカは脱力ぎみの腕を持ちあげ、アカラギと小指を絡み合わせ、唱えごとをした。指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲ます──。指切りとは、遊女が客に愛情の不変を誓う証として、小指を切断していたことに由来するが、約束を厳守しなければ制裁をくだす意味へと変化している。

 性教育とはいえ、ついに好きな男に抱かれたハルチカは、しばらく放心状態となった。天井の照明がまぶしくて目をつむると、触れられた部位が熱を主張してくる。体内の空洞ウロに残されたアカラギの温もりが、いつまでもハルチカを困惑させた。恥ずかしくて思いだしたくない花菱からの放尿(最悪の失態)、さらに性感帯の再確認として指をつかわれ、正常位での肛交を経験したハルチカは、もはや、のがれることのできない世界の住人となった。

「に、哥さん……、」

「なんだ? 疲れたはずだ。眠ってていいぞ。起きたとき、足腰に痛みが残っているだろうから、湿布しっぷを用意してやるよ。……それとも、先に掻きだしておくか。」

 アカラギの視線が下降すると、ハルチカは赤面して布団にもぐり込んだ。少し眠ったあと、風呂場で躰を洗い、そのさい、下腹部に痛みを感じたハルチカは、あと何回、あにに抱かれるのかを想像し、身ぶるいした。

「哥さん……、」

 男娼の手ほどきを受ける日々は、ひと月で終了する。すべてやり尽くしたとき、初日しょじつのお披露目(楼主との性交渉)をて、いよいよ客を相手に性サービスを提供するハルチカは、じっと、小指を見つめた。アカラギとの関係は、互いに夜鷹坂で働くかぎり、持続することはまちがいない。しかし、客の腕に抱かれるたび、身体からだの距離は遠くなるような気がした。

「ハルさーん、ちょっとおじゃましますよ~。」

「サ、サイキチ?」

 脱衣場でぼんやりするハルチカに、下働きの少年が間延びした声をかけてきた。彩吉サイキチといって、よわい十三ながら働きぶりはテキパキと要領よく、色々な作業を教えてくれた少年である。ハルチカは寝間着のえりを合わせ、バスタオルを洗濯かごにいれた。

「こんな夜更けに、まだ働いてたんだ……、」

「いえいえ、ぼく、きょうは遅番なので、この時刻から仕事なんですよ~。」

「え? そうなの?」

「はい。ハルさんみたく、男娼になれる年齢としにはかなわないし、ぼくなんか上背うわぜいも色気もないから、こういった雑用のほうが似合ってるんですよねぇ……」

 笑顔で話すサイキチは、風呂場の掃除をするため、デッキブラシやバケツを手にして湯殿に向かう。つい先程まで、アカラギに抱かれてあえいでいたハルチカは、うしろめたさが残った。もはや、立場が下働きとは異なるため、男娼の自覚が必要だった。


✓つづく
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