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第341話
しおりを挟む「さあ、吐け! おまえは誰の情人なんだ!?」
「シュイさん、声が大きいですってばっ。」
「隠してもムダだぞ。おまえのその輪具! 王族の誰かにもらったんだろう? キョースケは第6王子とヤってるんだってな!」
「ち、ちょっとシュイさん! 何てこと云うんですか!!」
御室堂の一角で、そんな立ち話をするユスラとシュイは、文官見習いとして講義に励む同期の学生である。恭介とランカは側近候補生につき、受ける講義内容が異なっていた。シュイは、朝帰りを果たした恭介には何も云わず、見るからに弱そうなユスラを問い詰めた。
「知ってるぞ。王族の情人は、利き手の人差し指に分不相応な輪具を嵌めてるってな。おまえの黄金の指輪も、見るからに不釣り合いだ。」
グッと、右腕を掴まれたユスラは「あっ」と、声をあげた。時刻は午前中だが、講義の合間には休憩が挟まれ、ユスラのようすを見にきた恭介がシュイの背後に立っていた。
「さあ、吐けよ! おまえは誰の情人なんだ!?」
なぜか鬼気迫るシュイの問いに答えたのは、「そこまでだ」と云って近づく恭介である。
「ユスラくんの相手は第4王子だよ。つまり、オレの相手より立場は上だ。シグルトに見られたら、相応の罰を受ける脅迫行為に該当しちまうぞ。」
「だ、第4王子だと!?」
「キョースケさん!」
「シュイ、わかったら手を放せ。……よう、ユスラくん。久しぶり。元気そうだな。」
恭介はシュイとユスラの顔を交互に見ると、躰ごとふたりの間に割り込んだ。
「は、はい! ぼくは元気です。キョースケさんも、しっかり勉強なさってますか?」
「まぁな。長時間の正座はキツイけど、それなりに順調だよ。」
「おい、こら、キョースケ! なんで邪魔するんだよ。ってか、あんたは側近候補だろ! 教室は向こうじゃんか!!」
「そう騒ぎ立てるなよ、シュイ。キミのことだから、どうせユスラの輪具に気づくだろうと思ってな。念のため見にきたら、案の定ってやつさ。」
意図して正義の味方を気取るつもりはないが、タイミングがドンピシャすぎた恭介は、「ははっ」と、思わず笑った。爽やかな笑顔に厭味はなく、シュイのほうで罪悪感に捉われた。
「なんだよ、キョースケめ。恰好良く登場しやがって!」
「褒め言葉なら頂戴しておくぜ。」
「ちぇっ! 褒めてるよ! この色男が!!」
「サンキュー。」
シュイの悪態(反抗的な態度)に馴れてきた恭介は、軽い口調で受け流す。ふたりは同室につき、ユスラは黙って会話を見まもった。恭介の柔軟な態度に降参したシュイは、ユスラをジロッと一瞥した後、先に教室へ戻っていく。恭介は「ふう」とため息を吐き、ユスラを振り向いた。
「悪いな。大丈夫だったか?」
「はい、大丈夫です。ありがとうございました。……あの、なぜキョースケさんが謝る必要が?」
「うん? ああ、シュイに情人の意味を教えたのはオレだからな。あいつとは同室者だから、これから共寝のたびにごまかすのもどうかと思って、こっちの事情を話しておいたンだ。」
恭介が左手の黒翡翠を右手の人差し指で示すと、ユスラは「そうだったのですね」と、今さらながら安堵した。シュイが情人について訊ねてくるとは、予想外の展開だった。文官生の教養範囲に、王族の性事情は含まれていない。ただし、側近候補生たちは例外である。むしろ、性的指導は必須課目だった。
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