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第301話〈安穏とした日常〉
しおりを挟む神殿では、真っ白な衣装を身につけたアレントが、祭壇の前で演説をしていた。
「あの日、私は過酷な運命をむしろ愛して、生きることを望んだ。人間の生きんとする意志の中にあるものは、勇気である。完成された神の領域は、ひとつの憶測であり、創造する意志こそ、聖なる発語をもって、静かな至福が誕生する瞬間なのである。」
神聖なる世界観に詳しくない恭介は、群がる聴衆に交じり、興味なさげに佇んでいた。コスモポリテス城と神殿の合間に押し寄せた人々は、礼拝堂から聞こえてくる新たな大司祭の声に耳をすませている。傍らのアミィは、両手を胸の前で合わせ、祈りのポーズを捧げていた。恭介の左隣りに立つユスラも、いつもより真剣な表情を浮かべている。
(う~ん、オレだけ場違いなところに居るような気がするな……)
ポリポリと指で前髪を掻きつつ、祝典のことよりジルヴァンに誤解されたままの状況が気になった。互いの認識が異なっている以上、多少の衝突は避けられない。たとえ口論に発展しようとも、ふたりの将来に関する事柄につき、恭介は第6王子を説き伏せる必要があった。
(……まったく、なんでいつもこうなるンだろうな。オレの都合よくいった試しがねぇな。……気苦労なら、いくらでも買ってやるさ。だがよ、最終目的は誰にも邪魔させねぇからな。……で、次は何が起こる? どっからでもかかって来い。特にルシオン!!)
後手にまわり、悩んでばかりはいられない。ルシオンに対して云いたいことが山ほどある恭介は、つい相手の立場を忘れ、敵視してしまう。ジルヴァンの情人という点を除けば、恭介の身分は、ルシオンの足許にもおよばない。うっかり喧嘩を売っては、牢屋に拘束される可能性もある。
(……どうあっても、オレのほうが格下なんだ。いくら努力しても対等な人間にはなれない。相手は王族だ。それはわかってる。オレはただ、ジルヴァンのそばにいることができれば充分なんだ)
恭介は、自ら手に入れることができる地位に挑戦した者のひとりである。それにより発生する責任も、当然ながら引き受けなければならない。だが、選択は自由だ。人間が人間としての主体性を超えないかぎり、世の中は混乱せず、解決できない諸問題を抱えることはない。恭介は静かな緊張と興奮を覚えたが、視線を投げて認識したい想い人の姿を捉えることはできなかった。
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