恭介の受難と異世界の住人

第300話

　執務室の扉を背にして立つ恭介は、話題を最初に戻し、アミィへ問い返した。
「手をとめるって、なんのことですか？」
「えっ？　あっ！　そうよ！　今からユスラちゃんも誘って神殿プロメッサへ行きましょう!!」
「神殿に？　何かあるンですか。」
「ええ、そうよ！　きょうは、アレントさまの祝典が執とり行おこなわれる日なの！　大司祭カイストリヒの引き継ぎは30年にいちどなのよ～。一般参賀は募つのってないけど、外から礼拝堂のようすを見に行きましょうよ～！　仕事なんかしてる場合じゃないわ!!」

（……やけにテンション高いな。いよいよアレントが、神殿のトップになるのか。ってことは、実弟おとうとのルシオンも来てるのか？　個人的に、あんまり顔を合わせたくねぇ兄弟なンだけどな……。うん？　アミィのやつ、よく見たら口紅くちべになんかつけてる？）

　今更、アミィの口唇くちびるがふだんより艶つやっぽい点に意識が及んだ恭介は、ハッとした。

「ア、アミィさんって、もしかして歳上としうえが好このみなんですか？」
「あらん！　いやだ～っ。キョウくんったら大胆～！」
　ポッと、頬まで赤く染めるアミィを見て、恭介は内心、突っ込んでおく。
（なんだ、その恥じらい方は！　確かにオレのほうが歳上だけど、アミィを口説くどいてるわけじゃねーし、それくらいわかるだろーが!!　ってか、遠目からでもアレントの姿を見たいって、どんな心境だよ。つまり、そういう、、、、ことなのか……!?）
　なんとなく、ウキウキして背景に花を散らすアミィの雰囲気は、恋する乙女のように見える。恭介は、こっそりレッドに同情した。

（……まさか、アレントに想いを寄せているのか？　だとすれば、レッドは失恋することになるぞ。……そもそも、あいつは歳下とししただしな。……せっかく事務内官に育そだてあげても、失恋が原因で辞めるってことにはならねーよな!?　あいつには、オレの意志を継いでもらわなきゃ困るんだ！　……レッド、本気でアミィと付き合いたければ、そんな簡単にあきらめるなよ!?）

　恭介には解決すべき問題がいくつか生しょうじていたが、文官に合格し、ジルヴァンの側仕そばつかえになる、その日は近いと信じていた。

　　　　＊　＊　＊　＊　＊　＊