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第288話
しおりを挟む魚鱗の戦士の寿命は短い。それどころか、人間として生まれながら常に水を欲し、知能が低いため言葉を覚えることができず、産みの親とも会話が成立しない。また、老化現象が早く、わずか1年足らずで見た目は皮と骨だけのようにしわがれてしまう。だが、ひとたび大量の水に浸かれば、若々しい肉体を取り戻すことができた。しかし、頭髪や髭などは白いままで、一時的に若返れば心臓の負担も大きい。つまり、外見と年齢は一致せず、適切な教育ができないまま自然界に放置されるため、人間を恨み、敵視するようになっていった。先天性の奇病につき、滅多に存在しないが、アカデメイア川は彼等の生息地でもあった。
「おぉーい! そいつぁ、魚鱗の戦士じゃねーか!?」
「大丈夫かーっ! そいつの弱点は肝じゃあ! 腹を蹴っ飛ばせぇ!」
デュブリス親子の異変に気づいた小舟の連中が、一斉に引き返してくる。デュブリスは魚鱗の戦士が気の毒に感じたが、このまま逃がせば第三者に危害を加える可能性が高いため、父親は肝のあたりを蹴りつけた。白髪男は「プギャーッ!!」と鳴いて吐血する。情けは無用とばかり、二発目をお見舞いすると、魚鱗の戦士は地面に倒れた。
「と、父さん……、本当に殺しちゃうの?」
「ああ、かわいそうだが人間を喰う生き物だからな。警備隊に報告する義務もあるが、生死は問われない。それに、魚鱗ってのは最期が悲惨なんだよ。どうあっても干からびちまう運命だから、見つけた時に始末して弔ってやったほうがいいんだ。」
詳しい生態を知る父親は、両手を合わせて黙祷を捧げると、力いっぱい頭部を蹴りつけた。悲しい断末魔が響き渡ると、小舟に乗った漁夫たちも合掌した。デュブリスは複雑な心境に陥るが、これもまた自然界の理なのだろうと、気持ちの整理をして割り切るしかない。
「魚鱗さん、どうか安らかに……。次に生まれてくる時は、幸せになれますように……。」
デュブリスは息絶えた魚鱗のそばへ歩み寄ると、膝を折り曲げて黙祷を捧げた。天に召された孤独な戦士のため、漁夫たちは川辺に供養碑を立てることにした。
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