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第267話
しおりを挟む「うむ、そろそろおまえさんは仕事の時間じゃろうが、しばらく休まなければ傷が塞がらんな。……おぬし、カイルといったな。執務室へ行って、適当な休職理由を伝えて来てくれんかのぅ。」
「解りました。……では、風邪ということにしましょうか?」
「ふむ、よかろう。ひどい風邪とあらば、1週間は休養が必要じゃな。それでよろしく頼むぞい。ついでに、見舞いは無用とも付け加えておくのじゃ。」
「かしこまりました。」
カイルは、寝台の上で瞼をとじている恭介を一瞥すると、部屋から退出した。微熱がある恭介は、ハァハァと、苦しげな呼吸をくり返している。医官とカイルのやりとりは聞こえていたが、会話に交ざる余裕はなかった。
(……ジルヴァン、ごめん。本当にごめん。すぐにでも会いに行って、キミに大丈夫だと伝えたいけど、今のオレの姿は、全然、大丈夫そうに見えねぇだろうな。……くそっ)
恭介なりに対処すべき事柄であっても、不甲斐なさが残る結果となって自滅した。せっかくの護身術も、必要な場面で活かせなければ意味がない。体得に付き合ってくれたボルグに対しても、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。世上は再び、恭介に試練の傷を負わせた。
(……痛すぎて、泣けるぜ!!)
実際、右腕の手当ては適切に行われていたが、言葉にあわらせないくらい激しい痛みを感じた。外科手術用の麻酔が存在するだけありがたい気分だが、痛み止めのような飲み薬がないか、医官に訊ねた。
「だいぶ辛いようだのぅ。解熱と鎮痛効果のある生薬を用意してやろう。しばし待っておれよ。」
「……はい。……ありがとうございます。色々とお世話になります。」
「礼には及ばん。これが儂の仕事だからの。」
医官が去り、ひとりきりになった恭介は、深いため息を吐いた。
(……カイルが戻ったら、ジルヴァンの様子がどうなのか、きちんと確かめなきゃな。……王子には王子の仕事があるから姿を見せないンだろうけど、カイルからオレがどうなったのか聞かされてるだろうし……)
なんたる軽率な判断だと、第6王子の叱責する表情が目に浮かぶと、不謹慎ながら笑みがこぼれた。人間のすべての認識と行為は、所業となる。恭介の活動理由は至って単純だが、周囲の反対意見は必ず含まれてしまう。
(……生きづらいとまでは云わないが、問題が起こるたび切り捨てるような人間にはなりたくねぇンだ。……臭いものにフタをしても、そこにあることには変わらないし、処分を先延ばしにしてるだけで正しい解決法じゃない。……相容れない事物を、どう穏便に解消するか……。そうれが難しいから、世の中の問題は尽きないんだ……)
いわば、第三の抜け道が必要な今、恭介はルシオンとのピリピリした関係が気になった。ジルヴァンと、より発展した状態へ進むたび、義兄の嫉妬は免がれないだろう。また、レッドのような自分より弱者に対して、どう接するべきか。いつの間にか、恭介の立場は中立に変化していた。ユスラも、恭介の部下(後輩)に当たる存在である。守るべきものは信念か相手の保身か、どちらの意義も熟慮して行動する能力が求められた。
(これが世間でいう中堅社員か? ……泣けるぜ)
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