260 / 364
第259話〈天理を存する者〉
しおりを挟む恭介はルシオンとの決着を、すっかり忘れたわけではない。レッドの自宅で食事をしてから、早ひと月が経過していた。恭介が目ざす文官試験も、日取りがますます近づき、ユスラは仕事が終わり次第、より勉強に励むようになった……気がする。つまり、ルシオンの相手をしている暇がない。
(大詰めって時に、オレは何をやってるンだ……?)
若きユスラが同じ目標に向けて突き進む中、最近の恭介はレッドに振り回されていた。きょうもまた、残業をする恭介の元までやって来て、長机で娯楽本を読みふけっている。“秘伝・ハメ技”などという書名を見るかぎり、エロ本だろうと思われた。
(……ったく。なんでわざわざここで読むかね。おかげで試験勉強に集中できやしない。……まいったな)
確認済みの伝票の束を箱に片付けた恭介は、王立図書館で貸借した参考書を読むため、本棚の陰に隠れた。レッドは、持参した書物に夢中になっている。
(なんでオレが、コソコソしなきゃならねーんだか……)
床に膝を立てて座り、参考書をひろげると静かに目を通した。試験に合格する道は、コスモポリテス国の戒律や王室用語を丸暗記するしかない。とにかく、たくさんの資料を読む時間が必要だった。どちらかといえば計算問題が得意な恭介にとって、古語を用いた文献の読解には、そこそこ苦戦した。それに比べ、おとなしく辛抱強いユスラは、文系向きである。
(……それでも、この生活環境に、だいぶ慣れてきたけどな)
これからもずっと、異世界で生きると覚悟を決めた恭介は、レッドに気づかれないよう、参考書を読み進めた。太陽が沈み、執務室が薄暗くなると、「帰るぞ」と云って、恭介のほうから声をかける。
「うぃっす! そうだ、キョースケ様、またいつでも飯を食いにきてくださいね! 母ちゃんもそう云ってたっす!」
「あ、ああ。考えておくよ。」
(悪いな、レッド。それは二度とないわ。すまん……)
内心で丁重に断った翌日の同時刻、恭介は再び(大詰めって時に、オレは何をやってるンだ……?)と思った。
〈君影堂〉でルシオンと対面するのは、これが二度目となる。城内ですれ違ったアレントから、勲章の祝酒に誘われた恭介は、仕方なく足を運ぶことになった。〔第237話参照〕
(相手は仮にも王族だし、祝ってもらわなくて結構とは、さすがに云えねぇしなぁ……)
まったく気乗りがしない恭介だが、こういった人付き合いも、必要な事柄だろうと割り切った。
* * * * * *
1
お気に入りに追加
184
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる