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第258話
しおりを挟む満腹になった恭介は、腕捲くりをして食器洗いの手伝いを名乗りでた。その途端、隣りに座っていたレッドの姉が、クォーツの腕時計を見て「きゃあ!」と、声をあげた。
「これ、すっごいキレイ! いくらしたの~?」
「これは贈物で……、」
うっかり姉のほうを振り向いてしまった恭介は、(うわっと!!)と慌てて視線を逸らした。
(……あぁっ、くそ。勘弁してくれ。そもそも、他人の男に見られて平気なのか……?)
毎日のように姉の乳房を見ているレッドは、なんとも思わないらしい。むしろ、エロ本のほうが興奮するようだ。裸族は、強靭な精神を持っているにちがいない。もっとも、打たれ強い人間のほうが、苦難に直面した時、乗り越える力を発揮することができる。
(なんていうか、ザイールとユスラも、この場に連れてきたいくらいだぜ。……少しは度胸が見習えるかもな。……あのふたりには、刺激が強すぎたりして……)
後片付けを終えた恭介は、「これで、お暇します」と云って玄関へ向かった。
「キョー、どこ行く~?」
と、レッドの弟がついてくる。
「たくさん食べたし、眠くなる前に帰るよ。」
頭を撫でてやると、「えへへ」と嬉しそうに笑った。恭介に弟は存在しないため、ふにゃっとした笑顔に和んだ。レッドと同じ黄白の髪と眼をしている。
「キョースケ様、途中まで送るっす!」
後からきたレッドに首をふり、「近いし、道なら覚えてるよ」と云って、ひとりで夜道を歩き始めた。
(ふーっ、さすがに腹は苦しいし、肩は凝ったし、疲れたぜ……)
レスレット家の独特な一面に神経を使い果たした恭介だが、背後に気を配る余裕はあった。またいつ、誰の恨みを買って襲われるか分からないため、油断は禁物だ。城下町に背を向けて歩くこと5分後、建物の陰から怪しい息づかいが聞こえた。
(前にもあったな。あの時はまだ昼間だったけど、夜になると激しいな……)
あきらかに、誰かが物陰で交わっている。受け手と思われるほうの喘ぎ声は、男のように低い。合意であれば問題ないと思いつつ、恭介は歩く速度を変えた。
(その場の邪魔者は、さっさと退散するに限るぜ……)
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