恭介の受難と異世界の住人

第255話

　執務室には、工具箱が備そなわっている。伝票整理の途中だった恭介は、棚から道具を持ち出すと、レッドの足許あしもとで扉の修理を始めた。

「すんません、キョースケ様の仕事を増やしてしまったっス！　自分でよければ夕飯ゆうメシご馳走ちそうするっス!!」
「いいよ、これくらい。すぐ直なおせるし。キミ、今さっき貧乏びんぼうって云いわなかったか？　無理すんなって。……それより、オレになんか用か？」
「いいえ、無理じゃないっす！　ウチに来てもらえれば、わかります！　だから、一緒に帰りましょうっす!!」
「うん？　キミの自宅いえに行くのか？　これから？」
「そうっス！　あっ、もしかして今夜の予定、先約とかあるっすか？」
「いや、それはないけど……、」
「じゃあ決まりっす。自分、ここで待たせてもらっても、いいですか？」
「……ああ。」
「失礼しまーす！」

　勢いよく扉をあけておきながら、室内に歩を進める際は一礼いちれいするレッドは、椅子イスにドカッと腰かけると、両脚を長机の上で交叉こうさした。

（おい、レッド。それはないわ。人の作業台に靴ごとそうくるかよ……）

　あまりにも自然な動作につき、レッドから悪意は感じない。だが、正しい躾しつけをすべきだと思った恭介は、工具箱へ道具を片付けながら注意した。

「レッド、机つくえの上に足を乗せるな。行儀ぎょうぎが悪いぞ。」
「あっ!?　またしても、すんません！　親父おやじにもよく叱られるっす！」
「そうか。次から気をつけてくれよ。」
「キョースケ様は寛大かんだいっすね！　涙がでます！」
「大袈裟おおげさだな。」

　手のひらを合わせて謝罪したレッドだが、恭介の帰り仕度を待つあいだ、例のエロ本を自分のサックから取り出して読み始めた。

（おいおい。切り替えも早はえぇな。今朝けさ、上司にバレないようにしろって忠告しただろーが。……オレも、その立場に含んでほしいンだけど。レッドの中で、すっかり理解者に昇格しちまってないか？）

　恭介に対して、妙に親しみを持って接してくるレッドだが、どう見ても不良志向が否いなめない。恭介的には、対処に悩む相手がまたひとり、増えてしまった感覚である。　

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