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第246話
しおりを挟むジルヴァンにできることは少ない。だが、何もできないわけではなかった。ひとまず計画は成功し、〈花序の間〉に戻ったジルヴァンは、ふたりの女官から『よくぞご無事で』『カイル武官とは会えましたか?』と同時に話しかけられた。
『ふたりともありがとう。ぼくは、なんともないよ。カイルにも会えた。』
時刻は夜更けにつき、ジルヴァンは、あらかじめ敷かれた布団へ横たわった。それから、女官に命令する。
『あしたの昼、シオンのところに行く。朝いちばんに〈君影堂〉の女官さまたちに報せておいて。』
『……承知しました。……お休みになりますか?』
『うん。おやすみ。』
『お休みなさいませ、王子様。』
女官は燭台の灯りを確かめてから室を出ていき、扉の両脇に控えた。第6王子の言動には幼さゆえの危険が伴っていたが、ジルヴァンの信念を支えることが務めでもある。たとえ利己的な感情が働いていたとしても、その側面を指摘せず、個人の欲求や権利を尊重した。それは、ルシオンに仕える女官も同様につき、個人主義を重んじる王宮で刺激的な接触はつきものだった。王族関係者は、頭の切れる人間ばかりである。ジルヴァンもまた、環境からの影響により、越えてゆくべき課題と向き合う必要があった。
『……カイル。ぼくとの約束を忘れちゃだめだからね。何年後でもいいから、かならず会いにくるんだからね。……今までありがとう。』
カイルが無実を主張せず、第6王子に『さよなら』を告げる理由は、コスモポリテス王国への忠誠心の現れでもある。カイルの家系は代々、優秀な武人を輩出していたが、今回の件で親族に泥を塗ってしまった。悲しいことに、ジルヴァンはカイルの追放刑を認めるしかなかった。ただし、ルシオンに面会して、城を追い出された後のカイルの身の安全と、生活の場を相談するつもりだった。ルシオンの目的はカイルから第6王子付きの護衛役を剥奪することにつき、罪人の烙印を押された今、これ以上の尋問は不適切である。本来ならば、ジルヴァンが策動するまでもないが、ルシオンにどうしても聞きたいことがあった。
だいいちに、武官の教訓に接触の禁止とある。護衛を担当する相手に指一本触れず、カラダを張って危険から身を守る。それが基本であり、敵側の勢力に応じて、身体に手を出すことも容認されたが、カイルがルシオンに対しては行った制止行動は、抑圧された欲望を刺激し、排除すべき人物と見做されて当然の横槍だった。
カイルが投獄された翌日、ジルヴァンは国王への挨拶をすませ、午前中の講義が終わると、ルシオンの元へ向かった。
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