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第238話〈息抜きをしよう〉
しおりを挟む「……し、しんどかった。」
城内の庭園で、むやみな神経を使う羽目となった恭介は、帰宅するなりしゃがみ込んで脱力した。寝室で休んでいたザイールが、
「キョースケさま? 遅かったですね。大丈夫ですか?」
と云いながら、薄着姿で玄関まで顔を見せる。
「悪い。寝てたか?」
「いえ、まだ寝るには早い時刻ですし、ただ横になっていただけです。それよりも、キョースケさまのほうが、ずいぶん疲れているようですが……、」
「まぁな。アレンとかいう人に会って、話し込んでたんだ。」
「アレン? ……もしや、アレントさまのことでしょうか。」
「知ってるのか?」
「ええ、もちろん。神殿の大司祭になられる御方ですから。」
「カイストリヒ?」
初めて聞く単語につき、恭介はザイールを真顔で見据えた。すると、ザイールの頬が、ポッと赤くなる。マズイと思った恭介は、青年の脇をすり抜けて、長椅子に座った。仮にも、ザイールの好意を承知しているため、接し方には配慮が必要である。きちんと告白されたわけではないが、恭介に対する態度の変化は一目瞭然だった。
(誰かを一方的に慕うと、すべてのことを甘受できるようになっちまうンだよな……)
片恋の切なさを知る恭介は、ジルヴァンの存在が心の支えとなっている。コスモポリテスに飛ばされた直後、手を差しのべてくれた獣王子に、ほのかな恋心を抱いた記憶は、いつまでも忘れがたい思い出だった。
(……悪いな、ザイール。キミには、オレより相応しい人物がいるはずだ。そいつを見つけてくれ。……応援する)
恭介は城下町で購入した酒瓶を手に取ると、玄関から戻ってきたザイールに声をかけた。
「たまには一杯やらないか? こいつのアルコール度数は低いから、息抜きに丁度いいぜ。」
「は、はい。お言葉に甘えて一杯だけ頂戴します。」
いったん寝室へ姿を消したザイールは、チンチン人形を抱っこしてきた。
(アルトゥルも同席するのか?)
恭介は酒瓶を開栓しながら、苦笑いした。ザイールにとっては、チンチン人形こそ心の支えなのだ。
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