238 / 364
第237話
しおりを挟むアレントは、ルシオンに気づかれないよう小声で恭介に耳打ちをした。
「まこと、興味深い男よ。シオンめがキョウスケを敵視する理由ならば、ひつしかない。其方は、第6王子の情人であったか。……共寝の進展は好調期であるから安心したまえ。……一時的に困難な状況に陥る相が見え隠れしているが、慎重に行動すれば問題ない。何かに気を張っている分、過労に用心せよ。適度な休息も大事だぞ。」
忠告にしては、一部聞きづらい内容である。恭介は無言を貫いたが、アレントは核心を突いてくる。
「其方の全体運は、高位の人から恩恵を受けて周囲の信用も増す傾向にある。だが、年長者と対立し、争論となりやすい暗示もあるな。何事も悪い方向に変化しないよう、人間関係に注意せよ。……秘事が露呈する恐れもあるゆえ、相互理解は必須であろう。」
(……秘事がバレる可能性があるってことか。いったい誰に? ジルヴァンにか?)
恭介がジルヴァンに伏せている事柄は、出自だけである。それも文官試験を突破した後、きちんと打ち明ける予定だ。とはいえ、ここまで正確な言葉で指摘されては、さすがに無視できない恭介は、ふと、庭園の暗がりに咲く白い花へ目をとめた。柊である。元はといえば、ルシオンにジルヴァンへの思いを告げる予定だった恭介は、小さくため息を吐いた。
(……いつまでもアレンに運勢を読まれると、オレの正体に気づかれそうだし、確認されたら黙秘するしかねぇし、いろいろ危険だ。早いところ退散しよう)
「ア、アレン。きょうは、話ができてよかった……と思う。オレは、もう帰るよ。」
「そうか、残念だな。もっとも、其方とは長い付き合いになりそうだ。この縁を、あとで祝おうぞ。」
(祝わなくていい! 頼むからオレに興味を持たないでくれ!)と、声に出せない恭介は、「悦んで」と述べておく。会釈をしてから、速歩で立ち去る。渡り廊下を逆方向に歩くルシオンは振り返らなかったが、アレントは微かに眉をひそめ、日本人の背中を見送った。
* * * * * *
1
お気に入りに追加
184
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる