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第235話〈力量発揮で解決〉
しおりを挟む不自然な動作で顔を背けた恭介は、こっそり冷や汗をかいた。目の前に立つアレントは初対面にも拘わらず、的確に素性を云い当てる。
「……なるほど。其方には内側から生まれた動機があるようだ。地位や栄誉は二の次とみた。何かひとつのことを、長いあいだ取り組んでいるはずだ。しかも、粘り強い。環境への適応は晩熟型だが、大器晩成の男であるな。……現在も、この王宮において大事な役割を持っている。ああ、なるほど。其方は行為者であったか。ほう? なかなか健康的な陰部ではないか。」
(うん? 最後のは下ネタか!? 人のどこを見て、なにを勘ぐってンだ、アレントさんよ……!)
恭介の下半身に視線を落としたアレントは、「ふんふん」と頷いて「立派だ」と感心する。もとより、コスモポリテスに下着と呼べる衣服は存在しないため、内官布の股下は、風通しが良い。透視でもしたかのような発言に、恭介は尻の穴に力が入った。
(……くそ。こうなったら、少し反撃してやるか!)
恭介は小さく深呼吸をし、アレントと正面から向き合った。
「ああ、ほんに眼の色も黒いのだな。実に不思議な男だ。面構えも悪くない。その立派な一物を使う夜のお相手役は、果たして誰であろうな? 其方のように邪念を感じさせない人種が何処から紛れ込んだのか、占ってみるか。」
「その前に、オレからもいいですか?」
恭介の科白に、アレントは「おっ」と、短く驚いた。恭介は、コホンと咳払いをしてから、会話を続ける。
「アレントさんは、ルシオンによく似ていますが、ご兄弟か何かでしょうか? 占いが得意のようですが、裏付ける証拠なら、いくらでも身につけていますから、オレにだってそれくらいの方便は可能です。」
「では聞こう。」
「たとえば、第一は性格についての予想でしょうが、内官姿なので不真面目には見えませんよね。第二は、胸もとの勲章です。植物の形をしているため、仕事の功績と関係があります。王族の方ならば、勲章の意味くらい理解しているはずです。……夜の行為者に至っては、左手の輪具が動かぬ証拠でしょう。オレの容姿が受け身に見えないのは、たぶん当然です。第三の意欲については、単純にオレの年代から判断したのでしょうか。ぼんやり過ごす人間が、無条件で国から表彰されるわけがない。……ちがいますか?」
ひと息にしゃべった恭介は、背後から歩み寄る足音に気づき、ハッとして振り向いた。西陽が沈みかけた茜色の空と、長身の人影が目に映る。
「……ルシオン、」
今度こそ、その名を間違えることはなかった恭介に、ジルヴァンの義兄は口の端を浮かせて笑って見せた。
「これは、奇妙な組み合わせだ。イシカワキョースケよ。なぜ、おまえが庭園にいる?」
恭介が仕事帰りに足を運んだ理由は、ルシオンに会うためである。アレントがいるとは知らず現状に至るわけだが、ルシオンの表情は険しくなった。
「アレンと立ち話をするとは、つくづく気に入らぬ男だ。」
(そりゃ、どうもすみませんね。オレだって、話があったのはあんたのほうだ……)
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