恭介の受難と異世界の住人

第229話〈花柊とルシオン〉

　寝間ベッドルームの円卓テーブルに置かれた花瓶に、柊ひいらぎの枝が差してある。白い花は甘い香りを漂わせるが、触れようと指を近づけると、針のような葉の棘トゲが邪魔をする。キンモクセイに似た芳香から、花言葉に〈歓迎〉という意味も含まれたが、日本では平安時代より魔除けに使われた植物でもあった。

　寝台ベッドの上でジルヴァンと深く交まじわる最中さいちゅうの恭介だが、室内に漂う柊ひいらぎの香りが気になった。なぜなら、ルシオンが管理する庭園に、柊の花が咲いていたからである。日頃の業務において、提出書類に不備を発見した場合、恭介は城内を移動して本人へ確認と訂正を求めるようにしている。その際、中庭の渡り廊下を横切ることがあった。

（……あの花はルシオンが持って来たのか？　ジルヴァンの寝間ベッドルームに、ルシオンが直接？）

「はぁっ、はぁっ！　あっ、キョースケぇ……!!」　

　ジルヴァンを喘あえがせておきながら、恭介は他の事に意識が及んだ。なにより、ルシオンは恋敵こいがたきでもある。ジルヴァンの体内領域をグイグイ攻めつつ、首筋や胸板へ、しつこいほど舌を這わせた。
「キョースケよ、もう少し……ゆっくりせよ……！」
「……ん？　ああ、悪い。」
「はぁっ、はぁっ！　くっ、」
「そろそろ限界か？」
「そ、そんな目で吾われを見るな！　貴様は不満でもあるのか!?」
「不満なワケあるかよ。今夜は、いちばん深いところでキミを感じてるンだぜ。……無理させてごめんな、ジルヴァン。」
「……うっ、くっ、キョースケめぇ！」
「そんなに睨にらむなよ。かわいくて仕方ないからさ。」
「キョースケ!!」
「ははっ。」

　素直に悦よがれず、受け身の状態に当惑とうわくするジルヴァンの表情は、いつも必死すぎて余裕が見られない。ふだんは高潔こうけつで気随きずいなふるまいが際立つ第６王子だが、恭介の腕の中では従順だった。
「あっ、ぁんっ、んんっ！」
「ジルヴァン……、」
「キョースケぇ……、」
「一緒に行こう。キミとなら何処どこまでだって行ける……、」
「……キョー……スケ？」
「……好きだ、ジルヴァン。」
「なっ!?　うぅっ、吾われは……もう……っ!!」
「いいよ。……ほら、」
「……っ!!　あぁっ!!」
　ジルヴァンと同時に絶頂を迎えた恭介は、やがて越えなければならない大きな道が、今は小さく感じた。日々の努力が自信となり、ジルヴァンと肉体を重ねる悦よろこびを、強く実感する。

（……無理して意地いじを張る姿がかわいくて、手加減を忘れそうになるな。……オレは、こんなにもキミのことが好きになってる。……キミを、誰にも渡したくない。この温もりを感じることができるのは、オレだけの特権なんだ。手離してたまるかよ……。ジルヴァンは、オレの恋人だ……）

　柊の花が薫かおる寝間へやで、恭介はジルヴァンと濃密な時間を過ごした。

　　　　＊　＊　＊　＊　＊　＊