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第226話〈道の向こう側へ〉
しおりを挟むついに、文官試験を1ヵ月後に控えた恭介の元へ、ジルヴァンから共寝の呼び出しがあった。
「それでは、失礼します」と云って頭をさげる女官に、
「ああ。いつもご苦労さん」と返して見送る恭介は、執務室の扉を静かに閉めた。
(……すげぇ、ご無沙汰じゃんか。このまま放置され続けるのかと思ってたから、ちょっと安心したぜ)
数ヵ月ぶりに誘いを受けた恭介は、すぐさま帰り仕度を始めた。共寝の呼び出し方法は至って単純で、恭介が残業しているところへ、ジルヴァン付きの女官がやってくる。最近では、いったん帰宅する手間をはぶくため、着替えを持ち歩くようにしていた恭介は、執務室の扉に鍵を掛けると共同浴場へ向かった。しばらく手入れをサボっていたムダ毛を処理すると、関係者住居で絹衣を身につけた。約束の時間まで、心地よい緊張感に捉われて過ごす。
(……そうだ。ジルヴァンにも勲章を見せてやろう)
内官布から勲章を外していると、寝室で横になっていたザイールが引き戸から顔だけ出した。
「……キョースケさま? どこかへ出掛けるのですか?」
「ちょっと野暮用でな。帰りは遅くなると思うけど、気にしないでくれ。」
「……そうですか。お気をつけて。」
「ああ。おやすみ、ザイール。」
「おやすみなさい……。」
ザイールは、時々朝帰りをする恭介の生活ぶりを見ても、説明を求めたりしない。同居人の私生活を必要以上に干渉しない性格につき、恭介が王族の情人であることを未だに理解していなかった。
(悪いな、ザイール。オレが情人だってこと、いつか必ず話すから、それまで待っていてくれ……)
なんとなく、ザイールには秘密にしておいたほうが無難であると判断した恭介は、ほんの少し罪悪感を覚えた。とはいえ、仕事においてアミィやユスラのように協力関係にないザイールとは、淡白な付き合い方を意識していた。
(深入りしないほうが、お互いのためだからな……)
ザイールの好意に、いつまでも気づかないほど、恭介も無神経ではない。ザイールの心情は、目の動きを見ればわかる。ザイールはときおり、チンチン人形を愛でるような表情をして、恭介の横顔をうっとり見つめていた。
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