221 / 364
第220話〈恵沢/けいたく〉
しおりを挟むシグルトに素性をごまかしてから数日後、恭介は午前中で仕事を切りあげると、城内にある広場へ向かった。肩を並べて歩くアミィから授与式の作法について教わったのは、きのうのことである。横からチラチラ(アミィの)視線を感じる恭介は、「なんですか?」と直球に訊ねた。
「もしかして、似合いませんか?」
「えっ? いやだ! ちがうわよ!」
「でも、アミィさん。さっきからオレを見て、何か云いたそうな顔してますよ。」
「そ、それは、なんて云うか、キョウくんがキョウくんじゃないみたいだから……、」
「オレはオレですが……。」
「んもうっ、だから返事に困ってるのよぅ! キョウくんは、キョウくんなのに、まるでキョウくんとはちがうもの~。」
「……何が云いたいンですか。」
「だ~か~ら~、キョウくんは、きょうを境にキョウくんじゃなくなるし~。」
アミィは、部下の名前を呪文のように唱える。恭介は今から祝賀式典へ参列する。ジルヴァンが用意した礼服に袖を通すと、アミィの態度が急変した。
(馬子にも衣装ってやつかね?)
中身が同一人物でも、衣装によって見た目が大きく変わると、それなりに立派に見えてしまうものである。恭介は身につかない黄金の刺繍が衿や袖口に装飾された豪勢な衣服に気後れしたが、アミィから絶賛された。ただでさえ、今から勲章を受け取りにいく。それは、このうえない称賛である。
「ごめんなさいね、キョウくん。あたしったら、なかなかキョウくんにちゃんと話してあげられなくて……、」
「気にしてませんよ。ジルヴァンの口から今回の件を知った時は、かなり驚きましたけどね。」
「あたし、バカね……。キョウくんはキョウくんなのに、急に意識しちゃって、近寄りがたく感じちゃってたわ……。」
「うん? オレって、そんな目つきとか悪いですか?」
「ちがうわ。そういう意味じゃないの。キョウくんは無自覚みたいだけど、あなたは立派よ。」
「……え?」
「初めて見た時から、キョウくんには驚かされてばかりいるわ。」
「そうなんですか?」
「そうよ。キョウくんは、アッという間に、あたしの手の届かない場所まで行ってしまいそうね。」
(……それはどうかな。むしろオレは、アミィとは、もっと近い存在になると思うけど……)
文官試験に合格すれば、主に高官などが住まう御室堂に引っ越すことになる。アミィは第6王子の側仕えに任命されて以降、長らく御室堂に身を置いている。
(そういえば、アミィって独身だったよな? 身近な既婚者は、武官のボルグさんくらいしか知らねぇな。……ザイールもユスラも、自分の将来について、どう考えているンだろう……)
現在の仕事に責任とやりがいを感じる恭介は、文官に登用されたあとも、執務室に身を置く考えを持っていた。できればアミィのように、兼任というカタチで事務内官の務めを継続する考えである。
(とにかく、まずは式典だな。少し緊張してきたぜ……)
広場に到着すると、恭介と似たような礼服を着た功績者が、数十人ほど集まっていた。アミィに促されて席につく。ドンドン、シャンシャンと、音楽隊が太鼓や笛を演奏していた。
(こうして見ると、コスモポリテスの文化って、あちこち日本とそっくりなンだよな……。東アジアと融合した国っぽいというか……)
顔だちこそ極端に異なっておらず、なにより日本語が標準語である。恭介は時々、長い夢をみているような気分になるが、コスモポリテスで生きる自分こそが現実であると、受けとめていた。
(今更、帰れるかよ。……たとえ元の世界に戻る方法が判ったとしても、オレは、ジルヴァンのそばを離れたくない……)
そのための努力は、何があっても欠かさない。日本で会計士を目ざした頃と同じく、恭介は新たな目標と決意を再認識した。
* * * * * *
※蛇足※今話の題名は、恵の沢と書いて〈けいたく〉と読みます。恩恵と似たような意味です。話のタイトルに(なぜか)フリガナ機能がないため一応……。すみません。
1
お気に入りに追加
178
あなたにおすすめの小説
ポンコツ女子は異世界で甘やかされる(R18ルート)
三ツ矢美咲
ファンタジー
投稿済み同タイトル小説の、ifルート・アナザーエンド・R18エピソード集。
各話タイトルの章を本編で読むと、より楽しめるかも。
第?章は前知識不要。
基本的にエロエロ。
本編がちょいちょい小難しい分、こっちはアホな話も書く予定。
一旦中断!詳細は近況を!
【R18】お嫁さんスライム娘が、ショタお婿さんといちゃらぶ子作りする話
みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。
前話
【R18】通りかかったショタ冒険者に襲い掛かったスライム娘が、敗北して繁殖させられる話
https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/384412801
ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで
【完結】転生してどエロく嫁をカスタマイズした
そば太郎
BL
BL小説やゲームが大好物な俺が、仕事帰りに神様のミスで死んでしまった。神様からは、補償特典をつけて、異世界に転生させてくれるって。まじか?
俺は、、、俺が願うのは、、、エロい嫁が欲しい!お願い。神様、俺専用の嫁が欲しいです!
ガチムチ、男前、雄っぱいがむちむちな、すっごーいどエロい嫁が欲しいです!ちなみに、どエロい程度は俺基準です!
※主人公攻め 嫁一筋 浮気はしません!
※作者自身が、文章作成スキルを持ち合わせてないので、設定が甘かったり、文章がつたないのは、スルーしてください!すみません。
※キーワードが注意
※最初の方は、嫁不在のため、他CPのHがあります!両親のHもでてくるので。注意
※中盤以降マニアックプレイ気をつけてください!
※ムーンさんでも投稿してます!
軟禁兄弟
ミヒロ
BL
両親の不仲に耐えられず、家出した優、高校1年生。行き場のない優はお兄さんに養われていたが...。
※表紙イラスト as-AIart- 様(素敵なイラストありがとうございます!)
過ちを犯した王太子妃は、王太子の愛にふたたび囚われる
ごろごろみかん。
恋愛
あの日、王太子妃ニルシェは過ちを犯してしまった。
自分のことだけを考え、結果として、いちばん大切なひとを傷つけてしまった──。
これは贖罪なのか、それとも罰なのか。
悲愴の死を迎えたニルシェは、ふたたび生を受け、新しい人生を送ることになる。
今さら、私に構わないでください
ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。
彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。
愛し合う二人の前では私は悪役。
幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。
しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……?
タイトル変更しました。
番+メイド+ペット+肉便器
アズサ
恋愛
まぁまぁお金持ちの貴族の家の不義の家の子として生まれたソフィアは12歳になったある日、市民街に捨てられた、そんな時に当時14歳だった王太子であったルカディオが番であったソフィアを見つけ、、
クソみたいな話です。
最凶の悪役令嬢になりますわ 〜処刑される未来を回避するために、敵国に逃げました〜
鬱沢色素
恋愛
伯爵家の令嬢であるエルナは、第一王子のレナルドの婚約者だ。
しかしレナルドはエルナを軽んじ、平民のアイリスと仲睦まじくしていた。
さらにあらぬ疑いをかけられ、エルナは『悪役令嬢』として処刑されてしまう。
だが、エルナが目を覚ますと、レナルドに婚約の一時停止を告げられた翌日に死に戻っていた。
破滅は一年後。
いずれ滅ぶ祖国を見捨て、エルナは敵国の王子殿下の元へ向かうが──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる