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第202話〈めぐり逢うまで〉
しおりを挟むアカデメイア川付近の森で、熊の親子を確認したゼニスとシリルは周囲を警戒した。密猟者の姿を目視するのではなく、ゼニスは発達した聴覚で足音を、シリルは嗅覚で身を隠している位置を探る。
「いるね。」と、シリル。
「3人……いや、4人だな。」
とゼニスがこたえる。ウルの情報は正しかった。シリルは火薬の臭いに眉をひそめ、ゼニスは乱暴に草花を踏みつけて歩く足音に顔をしかめた。
「どうしようか?」と訊くシリルに、「おれひとりで十分だ」とゼニスが応じる。
「でも、相手は銃を持っているんだよ? ゼニスだけじゃ危ないよ。ぼくにも協力させて。」
「ならば、熊のほうをたのむ。なるべく逆方向に気を引きつけておけ。猟銃の流れ弾に当たらないようにな。」
「わ、わかった。それじゃあ、ぼくは東緯へ行けばいいんだね?」
「ああ。風下へ向かえ。」
短いやりとりで計画を立てると、ゼニスとシリルはそれぞれ行動に移る。そして、シリルが先に熊と接触した。コスモポリテスでは獣人の獣王子であるシリルは、恐れることなく親熊と正面から向き合った。
「熊さん、聞いて! ぼくはシリル。キミたち親子を助けるために来た。橋のほうは危険だからこっちへおいで。ぼくと避難しよう。」
シリルは両腕を広げて云う。親熊は一匹で雌のにおいがした。子熊は二匹である。まだ小さい。シリルの顔を、じっと見つめた後、ゆっくり歩み寄ってきた。
「そう、その調子だよ。キミたちを密猟者になんか渡さないから安心してね。なんといってもゼニスは強いんだ。必ずキミたちを守ってくれる。」
うまく風下へ誘導していると、離れた場所から、ズドーンッと一発の銃声が聞こえた。親熊は目を見開いて背後を振り向いたが、シリルに「急いで!」と叫ばれてドカドカ走りだす。子熊も一生懸命ついてくる。剣で応戦するゼニスは、果たして無事だろうか。シリルの鼓動は速くなり息苦しさを覚えたが、まもなく、物騒な気配を感じなくなった。おそらく、ゼニスが撃退に成功したのだろう。
「……大丈夫。きっと大丈夫。」
シリルは黒い子熊の一匹を、ぎゅっと抱きしめながら、木陰に身を潜めた。親熊もその近くでウロウロ動いている。ただ待つことしかできないシリルだが、ゼニスの無事を信じて疑わなかった。しかも、こんな時に不謹慎ながら、シリルはゼニスと性交がしたいと思った。肌という肌を密着させ、ゼニスの熱を全身で感じ取る。互いに激しく求め合えば、何度でも最高の刺激と快楽を手に入れることができた。
「……ゼニスぅ。ぼくは、ここにいるよぉ。」
時間が経つにつれ不安を隠せないシリルは、ゼニスの合図が待ちきれなかった。それから数十分後、森のどこかでピィーッと口笛が鳴る。
「ゼニスだ!!」
シリルはすぐに反応した。子熊を解放して立ちあがり、「さあ、もう安全だよ。おいき!」と云って、熊の親子に手をふる。それから、ゼニスと合流するため、森の中を走った。
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