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第199話〈認める勇気と心〉
しおりを挟むリゼルがウルに欲情されて形勢が不利なころ、ゼニスとシリルは森の中を歩いていた。
「あのふたり大丈夫かなぁ。」
洞窟を気にして何度もうしろを振り向くシリルの横で、ゼニスが苦笑する。
「案外、過保護だな。」
「かほごって何? ぼくのこと?」
「ああ、そうだ。あまり大事にする必要はない。あいつらはもう、自分の頭で考えて行動できる。その責任も理解しているはずだ。」
「どうしてそう思うの?」
「見ていればわかる。とくにウルはな。」
「ぼくだって毎日見てるけど、ウルがどうかしたの?」
「リゼルを気に入ったようだ。」
「え? えっ!? それって、ウルがリゼルと夫婦になりたがってるってこと?」
「少しちがうが、似たようなもんだろう。」
「えーーーっ!? ふたりとも男の子だよぉ!?」
「そんなに驚くなよ、シリル。今のおれたちと、たいして変わらないだろう。」
「い、今のぼくとゼニスと変わらない関係なら、そ、それじゃあ、つまり、あのふたりもエッチなことしてるの!?」
「……かもな。」
ゼニスが控えめに肯定すると、シリルの声が「ひぇ~っ」と、裏返った。
「そんなの、全然気がつかなかった。だって、ふたりは喧嘩ばかりするし、仲が悪いのかと思ってたもん。なんでゼニスはわかったの?」
「ウルの目つきを見ればわかる。昔のおれと、同じだからな。何かに飢えているようで、死に場所を求めているような、そんな目だ。」
「ゼニスは、死ぬために傭兵になったの?」
シリルが首を傾げて訊く。ゼニスは「たぶんな」と云って、シリルの髪に指で触れた。
「おまえと出会わなければ、どこかの戦場で命を落としていたかもしれん。むしろ、そうなることを期待して傭兵に身を投じた。もとより、故郷に未練はない。見知らぬ土地で屍になる覚悟はあった。」
「そ、そんなの嫌だよ。ぼく、ゼニスが死んじゃう前に会えてよかった!」
胴体にぎゅっと抱きつかれたゼニスは、しばらく足をとめ、シリルと会話した。
「だからこそ、同じことがウルにも云える。」
「……どういうこと?」
「あいつは一匹オオカミのようだが、喪うものがないヤツほど、誰かに必要とされ、存在を認めてほしいと思うときがある。」
「……ゼニスも、そうだった?」
「ああ、おそらく。おまえに執着された当初、うっとうしいと思ったが、こんなおれを好きだと云うおまえを、大切にすべきなのかも知れないと、考えを改めた。」
「ひどいや、ゼニス! ぼくのこと、そんなふうに思ってたんだ。」
「これで許せ。」
シリルの機嫌を損ねたゼニスは、謝罪の意味を込めて口づけをした。親密性を獲得する条件は、忠誠を身につけることである。ゼニスは、シリルだけにしかひざまずかない。シリルもまた、ゼニスだけを性愛の対象に選んで身を捧げている。
「……ゼニスぅ、」
ふたりは(いい雰囲気になりかけたが)熊の親子の安否を気にかけて先を急いだ。その頃の洞窟では、今まさにリゼルがウルに襲われていたが、ゼニスいわく、親が口を挟む必要はない。なにが起きても自分自身で適切に処理する能力は、大人になるにつれ、必要不可欠である。
「……これほど早く、別れの日がくるとはな。」
少し前を歩くシリルが振り返る。
「ゼニス? なにか云った?」
シリルの表情は、いつもの明るさを取り戻している。我が子の旅立ちが近いことを、想像すらしていないようだ。
「……いや。なんでもない。」
ゼニスとしても、家族の時間をまだ見まもりたいが、リゼルの決断は異なった。
* * * * * *
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