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第197話
しおりを挟む朝早く、ゼニスとシリルが城下町へ向かうため洞窟を出ていく。
「父さん、母さん。気をつけて。」
「うん。リゼルもね。行ってきます!」
ゼニスが一緒につき、シリルは安全だろうと思うリゼルだが、密猟者の件が少し気になった。相手は銃火器を持っている。どんなにゼニスが強くても、基本戦術は剣を用いての接近戦であるため、けがをする可能性が高い。心配そうな顔で見送るリゼルだが、ゼニスは無言のまま背を向けた。
「……父さん。無事に帰ってきてくれよ。信じてるからな。」
ウルの情報によると、アカデメイア川にかかる橋から数人の密猟者が侵入しており、また、その周辺では熊の親子を目撃したらしい。シリルは悩んだ末、ゼニスと密猟者を撃退することにした。野生動物たちには、できるだけ長生きしてほしいという願いが強かったようだ。
洞窟の奥へ引き返すと、ウルが人型になっていた。一瞬、リゼルの心臓がドキンと大きく脈を打つ。きちんと一張羅を着ていたが、ウルが自慰をしてみせた時の生々しい記憶を忘れたわけではない。むやみに意識しているのはリゼルのほうだけで、ウルはシリルの寝床へ移動すると、クンクンと鼻先でにおいを嗅いだ。
「……おまえ、何やってるンだ?」
リゼルが背後から声をかけると、ウルは「いやな」と、返答した。
「おまえの母親、シリルだっけ? あいつ、雄にしておくには、もったいない雌だと思ってよ。」
「何云ってんだ?」
「おまえ、気づいてないのか?」
「何がさ。」
「雄同士でも、性交できるってこと。」
「なっ、なんだよ突然!?」
「その驚きようじゃ、知らないようだから教えてやる。オレサマたちが森で修業しているあいだ、おまえの両親は性交してるみたいだぜ。寝床の藁を新しく変えても、地面のにおいを嗅げばわかるンだよ。汗や体液のにおいが、しばらく残されているからな。」
「……っ!? そ、それがどうしたってのさ! 父さんと母さんは夫婦なんだし、なんの問題もないだろ!」
リゼルは、両親の秘密を暴かれたような気がして激昂する。ウルは、話題に取りあげなくてもよい事柄をわざわざ口にする。意地悪な性格だが、もはや嫌いにはなれなかった。
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