恭介の受難と異世界の住人

み馬

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第191話

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 リゼルとウルが、そろって洞窟に帰ってくる。

「ただいま、父さん、母さん。」
「二人共、おかえりなさーい!」
 と、シリル。
「ああ。」
 と、ゼニス。
「ほい。これ、お土産みやげ。」
 と云いながら大きな魚を差しだすウル。焚火たきびまきをくべるゼニスが受け取り、晩飯に追加する。寝床に座っていたシリルは、完成した一張羅いっちょうらをウルに手渡すため歩み寄ってきた。

「はい、着てみて。」
「なんだよ、これ。」
「ほえ? 見てわからない? ウルの衣服ふくだよ。」
「……あんたが作ったのか?」
「うん。」
「……変なやつ、」

 シリルは首をかしげたが、会話を間近で聞いていたリゼルが口を挟んだ。

「おまえな、せっかく母さんが作ってくれたンだから、ありがたく受け取れよ。」
「……つくづく、まぬけな親子だな。」
「なんだと?」
「いや。なんでもない。」

 ウルはシリルの手から青い布で作った一張羅を受け取ると、しかたなく袖を通した。腰紐こしひもが縫いつけられている。シリルがウルの代わりにそれを結んだ。

「わっ、ごめん。少し短いや。」

 思いのほかウルは背が高い。足頸あしくびまですそが間に合わず、膝下あたりで終わっている。だが、体毛で温度調節が可能なウルには、それで十分じゅうぶんだった。そもそも、人型で過ごせる時間は1日の半分にも満たないため、衣服ころもを身につける必要性を感じていなかった。

「ふうん。おまえこそ、そうやってると人間にしか見えないな。」
 これはリゼルの本心から出た言葉だが、ウルには皮肉にしか聞こえなかったようだ。「ふん」と云って、オオカミの姿に戻ってしまうと、ずるずる一張羅を引きずって歩き、壁際かべぎわで丸くなる。

「……気に入らなかったのかなぁ。ぼく、余計なことしちゃったみたい。」
「あいつが贅沢ぜいたくなだけだ。」
「ふふ、リゼルったら。ありがとう。」
「母さんこそ、あんなやつ、気にかけることなンてないのに。」
「ほえ? 気にかけているのはリゼルのほうじゃないのぉ。」
「は? なんでオレが……、」
「あれれ、無自覚なのかな。リゼルはよくウルを見つめているよ。」
「オレが?」
「うん。」
「そんなこと……、」

 あるわけないと、否定できずに口を閉ざすリゼルの視線はウルへ向いていた。

     * * * * * *
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