恭介の受難と異世界の住人

第179話

「くそーっ、くそーっ、なんなンだ、てめぇはよ～!!」　
「おかしらぁ～、おれたちは、どうなるんで～？　役所に捕まるのはごめんだ～っ。」　

　ゼニスによって売り物の縄で縛りあげられた盗賊どもは、ピーピー情けない声で騒ぐ。店主の腕の傷に手巾ハンカチを巻いて止血したリゼルは、クルッと背後を振り向いた。

「こらっ、おまえら!!　こんな悪いことをしておいて、反省の言葉もでないとは何様のつもりだ!!」
「キィーーーッ、生意気なまいきなガキめーーー!!　てめぇこそ、なんだぁ!?」　
「オレか？　オレの名前はリゼルだ!!　リゼル＝ディーン＝ルークシードだ!!」
「ぐっ、ぐぬぬ～っ、その顔と名前、憶おぼえておくからな!!　せいぜい、背後には気をつけることだな!!」
「望むところだ。オレだって負けない!!」

　という、息子と盗賊のやりとりがガンガン鼓膜に響くゼニスは、やれやれとばかりため息を吐いた。リゼルに練習と実践用の剣つるぎを持たせるつもりで立ち寄った武器屋で、予想外の場面に出喰わしたものの、冷静に対処したゼニスは店主に声をかけた。

「こいつらの後始末はあんたに任せる。おれたちは剣つるぎを買いに来た。見せてもらっても、かまわないか。」
「へぇ、どうぞ。あっ、いやいや、少々お待ちを！」

　店主はなにかを思いだしたようすで、慌あわただしく店の奥へ引っ込むと、一本の短剣クリスダガーを手にして戻ってきた。

「こいつを、こいつをやろう。これは数百年前に実在した有名な刀工とうこうの業物わざもので、家宝かほうにしておった一品いっぴんじゃ。もちろん、金など要らん。いや、もらえまいに。おまえさんらは命の恩人だぁ！」
「それを無料タダで譲ってくれるのか？　ちょっと見せて！」

　店主から短剣を受け取ったリゼルは、ゼニスの立つほうへカラダの向きを変えると、鞘さやから引き抜いた。よく手入れがされているようで、キラキラと輝く刃やいばに自分の顔が映り込む。切っ先は鋭いが刀身が短いため、勝負を制するには刺突の技量と相手の間合まあいに踏み込む勇気が試ためされる武器だった。

「これ、角度を変えると刃やいばが青く光って見える！　すげぇカッコイイ！　ねぇ、父さん。オレ、これが欲しい！」
「短剣クリスダガーか。……おまえは敏捷だからな。長剣ロングソードより、その手のほうが扱いやすいかもしれん。」

　武器を手にしたリゼルの胸は、ドキドキと高鳴っていた。

　　　　　＊　＊　＊　＊　＊　＊