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第177話
しおりを挟む数ヵ月ぶりに城下町へやって来たゼニスは、真っ先にリゼルの身装を整えた。監視塔での稼ぎを持参しているため、会計に支障を来す心配はない。試着室で、初めて人間らしい衣服に袖を通したリゼルは、感動を覚えた。
「どう? 父さん、似合ってる?」
「ああ。おまえはこれから、ますます背が伸びるだろうから、予備の上下も買っておくとしよう。」
「オレ、父さんよりデカくなるかな?」
「たぶんな。」
ゼニスと同じく帯巻き付きの衣服に着替えたリゼルは、皮靴を履くとピョンピョンその場で跳ねた。
「どうだ?」
「うん、大丈夫!」
「よし、あと一着選べ。」
「えっとねぇ、それじゃあ、あっちの黒い服がかっこよさそう!」
「うむ。好きにしろ。おまえが着るものだからな。」
「やったぁ! あっ、バンダナ発見! 母さんが作ってくれた頭巾より、こっちの柄がいいな~。」
「……おい、リゼル。シリルの前でそれを云うなよ。」
「わかってるって。」
初めて見るものばかりが並ぶ店内につき、リゼルの表情は明るい。すれ違う人間という人間に気を取られながらも、現状を楽しんでいるように見えた。獣耳さえ隠してしまえば、見た目は人間と変わらないため、ゼニスは無意識にホッとした。他人と異なる特徴は目につきやすく、否定的に捉えられやすい。リゼルが人間と良好な関係を築けるかどうか、ゼニスの懸念は絶えなかった。
衣服の会計を済ませたあと、ふたりは武器屋を探して歩きまわった。内政が安定しているコスモポリテスでは、危険物を取り扱う店が少ない。ようやく見つけて立ちどまると、リゼルが鼻をヒクヒクさせた。
「……父さん、血の匂いがする。」
「何処からだ。」
「この店の中。」
「なに?」
「本当だよ。武器屋の中で誰かが傷ついてる……。」
面倒事に係わるつもりはないが、負傷者がいるとあっては救助が優先される。ゼニスはリゼルの前にでると、静かに店の扉をあけた。すると、横幅のある男どもが数人で年老いた店主を取り囲み、物騒な刃物で脅していた。
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