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第168話
しおりを挟むリゼルの成長は目ざましく、1日の大半は睡眠に費やされていたが、シリルの母乳から必要な栄養素と免疫力を摂取し、生後2週間目には、視覚や聴覚も発達していた。
「……そろそろ、歩き始めそうだな。」
「うん。ぼくもそう思ってたところだよ。だってね、リゼル自身が、よちよち練習してるもの。」
「洞窟の入口には柵を立ててあるから安心しろ。……食糧だが、いつから固形物にするか、時期の判断に迷っている。」
「離乳って、いうンだっけ?」
「ああ。消化機能の発達に合わせる必要がある。」
「ぼくのおっぱい、まだ出るよ?」
シリルはそう云って、両手で片方の乳房を刺激すると、乳頭から白色の液体が分泌した。リゼルは専用の寝床で「キュ~、クゥ~」と、寝息を立てている。太陽が西へ沈みかけているため、焚火の準備をしていたゼニスは、手の汚れを水で洗うと、産後、ほぼ裸身で過ごすシリルの正面へ移動した。
「……あっ? ゼ、ゼニス?」
「いやか?」
「い、いや、じゃないけど……、」
ゼニスはシリルの乳首を咥え、直接、母乳を吸引する。ほのかに甘い液体がゼニスの咽喉へ流れ込んでくる。軽く指先を動かして乳房を揉むと、シリルの腰がビクッと跳ねた。
「……んっ、ぁんっ、……ゼニス、やっぱり、だ、だめかも……、」
「何がだめなんだ?」
「だって……、き、気持ちよくなっちゃうから……、おっぱい、だめ……」
「わかった。」
ゼニスの戯れに、シリルの男性器が凝固している。両性具有とはいえ、女性特有の生殖器官は消失しているため、リゼルが離乳を迎えた時点でシリルの乳房も役目を終える。つまり、二度と女体化しない。そうなる前にシリルの現在の姿をしっかり記憶に残しておくべきだと考えたゼニスは、大胆な行動にでた。
「……ゼニス、……そこは、」
「おれに、触られたくないか?」
「そうじゃなくて……、感じちゃうから……、」
「発情もなしに?」
「うん。……変、だよね? なんでだろう……、」
「べつに変ではないさ。おまえは、おれに興奮する。それだけのことだ。」
「ゼニスに興奮? ぼくが、なんで……?」
「好きだからだろ。ちがうのか。」
「ち、ちがくない、けど……、ぼく、人間の気持ち、よくわからないから……、」
「そんなもの、わからなくていい。おまえは、リゼルのことだけを考えてやれ。」
「そんなのやだ。」
「やだ?」
「ぼく、ゼニスのことも考えたい。」
シリルは首をのばし、ゼニスと口唇を重ねた。ゼニスの指がシリルの男性器を這っているため、「うっ、あぅっ」と息を洩らし、快感をがまんする。
「やっ、だめだってば、ゼニスっ。……なんか、出ちゃうっ、」
「出していいンだよ。」
「はっ、あっ、んんっ……!」
ゼニスの愛撫にすっかり反応を示す雄の部位を見たシリルは、恥ずかしさのあまり全身が慄えた。リゼルがすやすやと眠る横で、ゼニスはシリルを抱くため帯巻きを外したが、発情していなければ生殖行為をしても意味がないと考える獣王子に拒まれた。
「それ以上は、やめてってばゼニス。ぼく、交接されても赤ちゃんをつくれない。」
「シリル、そうではない。おまえは、もう……」
もはや、シリルが妊娠することはあり得ない事実だが、発情中でなければ、性交渉をする理由がないと決めつけている。いっぽうゼニスは、夫婦であるはずのシリルの温もりが遠く感じた。
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