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第159話
しおりを挟む剣闘試合に初参加して優勝者となったゼニスは、好奇な目で見られるようになった。まさか誰も15歳の少年が常連の猛者に勝つとは思えず、中心部ではアッという間に情報が知れわたり、ゆく先々で有名人扱いを受けた。
「あっ、見ろよ。あいつだろ?」
「そうそう、大会の優勝者!」
「名前は、ゼニスなんとかって、」
「あれ? なんであんな安っぽい剣をさげているんだろう。」
「ホントだ。大剣が贈与されたはずだよな?」
「きゃっ、見て見て。あの子よ。」
「まだ少年じゃない!」
「そうなのよ。びっくりよね。でも、あの少年が大人に立ち向かって、あっさり勝ち抜いたのよ。すごいわ~。」
「目つきがギラギラしてて、わたしの好みかも~。」
「うんうん。強い男って、かっこいいよねぇ!」
町を歩くあいだ、無遠慮な視線を浴び続けるゼニスは、にわかに苛立ちを覚えた。聞こえてくる声は大会で優勝した実力よりも、見た目の感想のほうが圧倒的に多い。それは第一印象における単純な意見である。むろん、ひと目で他者の本質を見ぬける達人は少ない。まして、人柄や善悪を見極めるためには、注意深く言動を観察する必要がある。
「バッキャローがぁ!!」
「よーし、やってやろうじゃねぇか!!」
と、やかましい声が聞こえ、ゼニスは足をとめた。町へきた時は閉まっていた木造の店に、わらわらと人が集まっている。近づいてみると、図体の厳しい輩が、唾を飛ばして怒鳴り合っていた。
「やいやい、オレサマのほうが自信あるぜ!」
「いいや、オレのほうが、もっとずっと上だね!」
「フンッ。口先だけの奴ほど、戦場じゃ逃げまわるしか脳がないンだ。」
「なんだと!?」
「なにを!?」
「落ちつけよ。なにも、おまえらごときを悪くいったわけじゃない。見てきた事実を云ったまでだ。オレたち傭兵なんてのは、捨駒と変わらンからな。場合によっては、逃げるが勝ちだろう?」
「チッ、なんだよエラそうに……!」
「けっ、傭兵とはいえ、死んじまったら稼ぎがパァッだからな!」
下品な口調だが、ゼニスは傭兵という言葉に(将来の)考えがひらめいた。
「……なるほど。その手があったか。」と、つぶやいて、中心部をあとにする。これより先、ゼニスはより一層、剣術に磨きをかけることになる。そして16歳の冬、白い息を吐きながら故郷を旅立った。戦地を渡り歩くこと7年後、オルグロストの荒野でシリルと遭遇する。さらに、ふたりの出会いにより、まだ誰も知らない奇跡が起こるのだった。
「ゼニス、ゼニス。」
「……リシルド、」
胸板を揺さぶられて目を覚ましたゼニスは、ずいぶん深い眠りに就いていたことに気づく。上体を起こすと、太陽が東の空にのぼっていた。健康的なシリルの顔色を見てホッとしつつ、ゆっくり立ちあがる。
「すまん。熟睡していたようだ。」
「なんで謝るの? ぼくなら全然かまわないよ。ぐっすり寝てたけど、ちょっと声をかけてみたくなって……。起こしちゃった?」
「いや、それでいい。のんびりしていたら、今日中に橋を越えられん。」
「そう、よかった。橋を越えたら自然領だね!」
「ああ。……行くか。」
「うん!」
長い夢から醒めたゼニスはシリルと共に生きる道を選び、未来へと進む。
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