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第152話
しおりを挟む時系列にして、恭介が王立図書館で雨宿りをしている頃、塒で丸くなっていたシリルは、ガバッと跳ね起きた。
「シリル様?」
「ねぇ、ディラン。この音、雨が降ってる?」
「ええ、さきほど降りだしたようです。驟雨でしょうから、すぐに止みますよ。」
「ホントに? それじゃあ、虹が見られるかも!」
シリルは云うなり、裸身で外へ走ってゆく。ディランは内衣を身につけていたが、獣人の多くは全裸で生活するため、とくに問題はない。しかし、成獣へと身体のつくりが変化しつつあるシリルは、慎みの意識を持つべきだった。
「わぁ~、雨だ~!」
「シリル様、衣服をどうぞ。気温が下がっているので、風邪を引かれませんよう、ご注意ください。」
「はーい。」
シリルは素直に返事をすると、差し出されたワンピースを受け取った。数年前、ゼニスとふたりで見ることができなかった記憶を思いだし、虹がでるのを待つ。〔第87話参照〕
熱心に空を見つめていると、傍らに控えるディランが質問した。
「虹がでるのが、そんなに待ち遠しいのですか?」
「ぼく、なにか変かな?」
「いいえ、そうではございません。シリル様のようすが、あまりにも真剣でしたので、つい……、」
「えへへ~。それなら、ディランも一緒に見ようよ。」
「はい、悦んで。」
シリルとディランは、しばらく雨が降りしきる村を眺めていた。やがて、灰色の雲が薄れてゆき、太陽の光が射し込んでくる。
空模様を見つめるシリルのコーラルレッドの双瞳に、アーチ型の橋が架かる。
「うわぁっ、すごい! 本当にキレイな虹がでた~!!」
シリルは東の空を指で示すと、嬉しそうにディランを振り向いた。虹とは、太陽の光が空気中に浮遊する水滴に屈折し、反射して七色に分かれる大気光現象である。光は波長によって屈折率が異なるため、7色に分光されて見えた。
「ねぇねぇ、ディラン。もっと近づいてみようよ!」
無邪気なシリルは、泥濘んだ地面を裸足で駆けてゆく。いくら前へ進んでも、見える虹の大きさは変わらない。だが、ディランはシリルの自由に走らせた。
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