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第151話〈シリルの旅立ち〉
しおりを挟むコスモポリス王国でセカンドライフをスタートさせた恭介が日進月歩する中で、獣人の獣王子にも変化が見られた。
西緯の領地で暮らす獣人族の王子・リシルド(通称シリル)は、父であり獣王である集落の長に呼び出された。
「リシルドよ。おまえはいくつになる。」
「えっとぉ、もうすぐ31かな。」
「ふむ。カラダの具合はどうなのだ? おまえは、数百年にいちどの両性具有であるからな。成長過程が常人と異なるが、そろそろ生殖において、適齢期を迎えてもおかしくはない年頃ではなかろうか……。」
「うん、そうかもね。女体化する周期も短くなってきたよ。あと、おしりから血が出るようになったんだ。」
「……ほう、それは妊娠が可能となった証ではないのか?」
「う~ん、よくわからないけど、おなかが痛くなるの。でも、すぐに止まるから変な病気じゃないと思う。心配ないって、ディランもそう云ってた。」
「ふむ。両性具有の受精器官は、わずか数分間しか機能しないらしいからな。確実に身籠るには、すぐさま交尾行動に移れる伴侶をそばに置く必要がある。」
「……伴侶って?」
「リシルドの番い候補である。兼ねてより、ディランルートに世話役を任せてきたが、あの者と添い遂げる気はないか。」
「え? ぼく、ディランと交尾するの?」
「……そのとおりだ。考えてみるがいい。おまえは直に成獣となる身だ。そうなれば、この村を離れて暮らす必要がある。あらかじめ有能な伴侶が共におれば、新天地を見つけるまで安全な旅が可能となるだろう。」
獣人族の雄は、成長すると雌を求めて集落を出ていかなければならない。もしくは、野山で一匹狼として暮らす自由も選択できる。獣王子であるシリルも見た目は雄につき、例外ではなかった。ディランと歩む将来を考えていないシリルは、首を横にふる。
「大丈夫だよ、お父さん。ぼくのことは何も心配しないで。ちゃんと〈ゼニス〉の赤ちゃんを産んで幸福に暮らすから、遺跡の子どもたちをよろしくね。」
シリルは笑顔で云うと、くるりと背を向けた。ワンピースの裾が、ひらひらと風に揺れている。ペタペタと裸足で歩きながら退出すると、ディランの待つ塒へ戻った。
「おかえりなさいませ、シリル様。」
「ただいま、ディラン。……なんだか、おなかが痛くなってきた、」
「でしたら、見てみましょうか。」
「うん、お願い。」
シリルは丸太に座るとワンピースをめくった。ディランは正面にひざまずき、股のあいだを調べる。
「出血していますね。今、お湯を用意してまいります。」
シリルの生理現象を確認したディランは、すぐに処置をする。温めた水を布巾に染み込ませると、太腿まで流れた経血を拭き取った。その際、わずかな変化に目をとめる。シリルの下腹部に、うっすらと性毛がのびていた。ひと月後には生殖器官を覆い隠すと思われた。その時、シリルは成獣扱いとなる。いよいよ、女体化(発情)した際は交尾に適した状態となるため、自分こそがシリルの伴侶になるべきだと思い込むディランは、心の準備をした。
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