恭介の受難と異世界の住人

第149話

　王立図書館で足止あしどめ中の恭介は、軒下のきしたに佇たたずんでいた。屋根やねに降る雨水が、雨垂あまだれとなって地面に落ちてくる。ザァーッと、ひとしきり強い雨に見舞われたが、数十分後には晴れ間まがさした。

「ここからアカデメイアの漁場まで、２時間くらいはかかるよな？」

　徒歩とほで向かった場合、日が暮れてしまう可能性のほうが高く、雨のせいで漁は中断しているだろうと思われた。

「予定どおりに事ことが運べば、苦労しねぇってやつか。」

　恭介は肩をすぼめると、ぱしゃんと水溜みずたまりを避よけて歩き始めた。菜店レストランで昼飯ひるメシをすませ、中央広場でひと息つく。屋根付きの休憩所にベンチを見つけて腰をおろすと、トテトテとかわいらしい足音が背後から近づいてきた。振り向くと、デュブリスよりさらに小さな子どもが立っていた。
「おにーちゃん、こんにちは。」
「こんにちは。キミ、ひとりなのか？」
「ううん。お母さんといっしょだよ。今、あっちで買い物してる。」
「そうか。迷子まいごになるなよ。」
「うん。ここのベンチで待ってるように云われたの。隣となりに座ってもいーい？」
「ああ。」
　恭介がサックをよけると、小さな男の子は行儀ぎょうぎよく足をそろえて座った。淡あわい水色のワンピースを着ていたが、素足すあしである点が気になった。

（……この雨の中を裸足はだしかよ？）

　男の子は手ぶらにつき、靴を履はいていたようすは見られない。恭介的に、足先を保護する物をつけない理由が思い浮かばないため、直球ストレートに訊たずねた。

「なぁ、履物はきものはどうしたんだ？」
「はきものって？」
「うん？　こういう靴のことだけど……、」

　恭介は自分が履いている皮靴ブーツを指で示しめすが、男の子はクスクスと笑いだした。

「そんなの、、、、、ぼくらには必要ないよ。」
「必要ない？」
「そうだよ。ふだんは町になんてこないもん。」

　恭介は会話の途中とちゅうでハッとなる。今、隣に座る男の子は人間、、ではなく、獣人けひとだった。

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