恭介の受難と異世界の住人

み馬

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第148話〈季節はずれの雨〉

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(このままひとりで勉強するよりも、コスモポリテスの出身者ユスラ切磋琢磨せっさたくましたほうが、効率よくねぇか?)
 と、恭介は思った。

 分厚ぶあつい参考書を丸暗記するため、かれこれ数百時間はついやしてきたが、頭の中での整理は追いつかず、だんだん不安を感じた。なにしろ、恭介は日本人である。コスモポリスの文化を正確に理解しているわけではない。参考書を読みながら、ちょっとした疑問がしょうじても、誰にもくことができない上、周囲に勉強の意図いとかんぐられるわけにはいかない。

「あ~っ、くそっ。ようやく半分くらいか? ……ふう、いったん休憩きゅうけいするか。」

 試験までの日程にっていは、残り数ヵ月である。きょうのような休日は朝から晩まで勉強していたが、やはり、そろそろ限界が近い。

「こりゃ、少し、やり方を変えるしかねぇな。」

 黒い前髪をぼりぼり掻くと、早速、肩がけのサックに参考書をしまって部屋を出る。王立図書館へ向かうため荷車にぐるまに乗り込んだ。
 恭介の目的は、デュブリスに会うことである。少年は漁夫りょうしの息子につき、官吏かんり職とは無関係の存在だ。
(部外者のデュブリスくんになら、文官試験の相談をしても、ジルヴァンやアミィたちにバレる心配はねぇだろう)
 そんな理由で抜け穴を見つけたが、狙いどおり会えるとは限らない。まずは図書館でデュブリスをさがし、見つからなければ漁場のある川まで足をのばす予定だった。

(……やっぱ、そんな都合よく居るわけないよな)

 図書館に着いた恭介は、受付窓口で入館手続きをして紐つきの番号札をもらうと、館内をくまなく捜索した。だが、デュブリスらしき少年に行き合うことはできなかった。 
 窓口へ戻り番号札を返却すると、サァサァと雨の降る音が聞こえた。
「うお、マジか。」
 図書館を出た恭介は、灰色はいいろの空から落ちてくる細い糸のような雨を見て、つぶやいた。

異世界こっちに来てから初めて降ったな。」
 
 コスモポリスは温暖な気候につき、梅雨つゆはなく、季節はずれの雨天うてんもめずらしい。歩いて帰るには距離があるため、雨が止むまで待つことにした。

     * * * * * *
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