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第140話
しおりを挟む執務室でいつものように仕事をする恭介の元へ、ルシオン付きの女官がやって来た。ちょうど残業を切り上げて文官試験の勉強を始めようとしていたが、素速く参考書をサックの中へしまった。
「イシカワ様、こんばんは。いつも突然お伺いしてしまい、誠に申し訳ございません。」
「いや、いいよ。キミはルシオンの言伝を預かってきているだけだろう?」
扉を叩く音に応じて顔を出すと、女官とそんなやりとりをした後、「これを」と1枚の紙を渡された。
「なんだい、これ。」
「面会許可証です。イシカワ様を襲撃した兵士は今、ルシオン様が手配した下町の病院で治療を受けています。容体が安定されたようで、あなたさまとの面会を兵士が希望しています。……おそらく、謝罪の言葉を述べたいのだと思いますが、どうなさいますか? ルシオン様のお考えを伝えますと、拒否されて構わないそうです。」
「わかった。これを持って、その病院に行けばいいンだな。」
「……本当に、行かれるのですか?」
「ああ、行くよ。話くらい聞いてやるさ。」
「そうですか……。病院内とはいえ、相手はイシカワ様をよく思われていませんので、くれぐれもお気をつけを。」
「わざわざどうもありがとう。ルシオンにも、いちおう礼を伝えておいてくれ。」
「かしこまりました。」
ルシオンいわく、自分を憎らしく思う相手の呼び出しに応じる必要はないらしい。だが、恭介は兵士のいる病室へ向かうことにした。面会許可証には、病院名と番地も記入されている。
(きょうはもう遅いし、明日にでも行ってみるか……)
恭介はクォーツの腕時計で時刻を確認すると、再び長机に戻り、2時間ほど勉強してから帰宅した。
翌日の午後、定時で仕事を終えた恭介は、鍵当番のユスラを残して先に執務室を出た。徒歩で城下町へ向かい、病院までの道程を迷わないよう、近くを通りかかった住民へ場所を訊ねておく。
「……よし。ここだな。」
20分ほど歩いて到着した病院は、とくに看板が見あたらない。個人経営にしては、大きな建物だった。扉を開けて受付らしき窓口へ面会許可証を提示する。案内された病室へたどり着くと、コンコンと扉を叩き、中の人物に合図を送った。数十秒経過しても返事がないため、恭介は眠っている可能性を考えつつ、静かに入室した。ところが、パイプ寝台に兵士の姿はなく、一歩前に進んだ恭介の真横から襲いかかってきた。
「うわっ!?」
条件反射で回避に成功した恭介だが、兵士の手に握られた果物ナイフを目にした途端、生命の危険を感じた。
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