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第130話〈王子たちの主張〉
しおりを挟む法によって禁じられた刑罰に科せられる行為に自身の言行が該当した場合、責任を負う覚悟が必要である。罪の重さに関係なく、自分本位で他者を損なってはいけない。一時の感情で軽はずみな行動をしては、取り返しのつかない結果を招くこともある。
恭介を襲わせた犯人は、ボルグの部下で、まだ若い下級兵士だった。ルシオンは夜風を当たりに城下町へ出かけ(本人いわく、日課らしい)、偶然、頭から血を流して倒れる恭介を発見した。すぐさま治療を施されたおかけで、恭介は大事に至らずにすんでいる。だが、もし倒れていた人物が王族の情人でなければ、捨て置かれた場面でもあった。ルシオンとしては、第6王子の悲しむ顔を見たくないという心情が働き、介抱したにすぎなかった。つまり、恭介のことを思って助けたわけではない。
(……やっぱり、なんか変だと思ってたんだよな。ルシオンのやつが、なんで犯人探しを名乗りでたのか。ふつうに考えて、おかしいだろ。オレは邪魔者ポジションだし、あのまま放置して、どうなっても良かったはずだ。……要するに、ジルヴァンの情人に手をだした野郎の面を拝んで、直接痛めつけたかっただけか……?)
暴力的な手段での解決を好まない恭介は、加害者の状態を気にかけた。ただでさえ、今回の事件は前向きに捉えようと努力しているため、複雑な心境に陥った。
「こんなに血だらけになるまで殴られたのかよ。おい、大丈夫か? しっかりしろ。」
「ど……、ど……う……して、あんたが……、心配なんか……、」
「苦しそうだな。無理にしゃべらなくていいぞ。」
「……くっ、……うぅっ、」
憎らしく思う相手から気づかわれた兵士は、ボロボロと大粒の涙をこぼした。恭介は手巾を差しだしてやり、兵士の背中をポンポンと軽く叩いた。すでに罰は受けている。これ以上の尋問は必要ないと判断した恭介は、スッと立ちあがり、ふたりの王子と正面から向き合った。
「オレは、この罪人を赦す。だから、もう手をださないでくれ。」
ひとまず、危険な鉄の棒を所持するルシオンの顔を見て云うと、あからさまに眉間に皺を寄せられた。続いて、第4王子は腕組みをしてため息を吐く。
「イシカワキョースケよ。おまえはいつから王族より偉くなったのだ。そのような意見は求めておらぬ。わが実弟は、ずいぶん情人を甘やかしているようだ。」
「そうじゃない。ジルヴァンは何も悪くないし、オレだって偉くもなんともねーよ。常識的に判断したまでだ。こいつを死罪にするなんて、被害者のオレが望まないンだよ。頼むから、早く手当てをしてやってくれ。」
真剣な表情で訴える恭介を見たシグルトは、付き添いの女官を呼び寄せた。ふたりがかりで兵士のカラダを持ちあげた女官は、秘密の通路を使って中庭から姿を消した。ルシオンは女官をつれて歩きまわらないため、こんどこそ、ふたりの王子と対峙する状況となった恭介だが、強気な姿勢を継行して発言した。
「ちゃんと手当てしてくれるンだろうな? まさか、拷問室とかに連行したんじゃねぇよな。」
「イシカワキョースケは、疑り深いな。男のくせに女々しいぞ。……仮にも、共寝では男役専門なのだろう。」
(おとこやくせんもんって……、なんだ、それ。バリタチって意味だっけ? ちがったか? ……まぁ、専門用語はどうでもいいか。ってか、ジルヴァンとの関係をあれこれ詮索されるのは、すげぇ不愉快なんだけど)
恭介は眉をひそめ、なんとかして早くこの場を切り上げたいと、心の底から強く思った。さきほどから、キリキリと胃痛がしてしようがない。
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