恭介の受難と異世界の住人

み馬

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第 96 話

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 シリルは、ゼニスと夫婦ふうふいとなみをおこなうことにたいして、相互の受容があった。シリル側の条件を満たし、ゼニスと交接を果たした時、獣王子けひとでありながら人間の子、、、、さずかることになるが、好きになったひとの赤ちゃんを産みたいという、純粋な気持ちのほうが強かった。むしろ、ゼニス以外の誰かと肉体をつうじ合うことは、考えられなかった。

 濡れたカラダがかわいたシリルは、ゼニスとの別れを名残なごしみつつ、衣服を着こむと、遅くならない内に帰ることにした。

「それじゃあ、行こっか。帰りも手をつながせてくれる?」
 シリルの問いにうなずくゼニスだが、背後のしげみがカサカサと揺れている。用心ようじんしてつるぎをかまえたが、走ったほうが早いと判断した。シリルの手を取ると、素速すばやく行動する。足の長さがちがうため、ゼニスは速度を調整しながら走った。

「わわっ、またあいつら、、、、が追ってきたね!」

 シリルは肩越しにふり向いて、数匹の食人鬼じきにんきを確認した。以前も同じように襲われているため、振り切ることは可能だった。〔第90話参照〕

「なんだか、ゼニスといると走ってばかりだねっ。」
「それは、こっちの科白セリフだ。」
「えへへっ。ごめんね、ゼニス。いつもありがとうっ。」

 ふたりは食人鬼に追われて林道を駆け抜けていたが、どちらもその表情は明るかった。監視塔サーベイランス付近でゼニスと別れたシリルは、ひとりで村に戻った。

「シリル様、おかえりなさい。」
「ただいま!」

 村では、世話役のディランが待っていた。遺跡ルーインへの立ち入りは王族しか許されていないため、シリルはひとりで村を出ていた。遺跡の奥地にいる獣人けひとの未熟児の安否あんぴ確認をしてきたシリルだが、カラダから人間のにおい、、、、、、がしていた。ディランは思わず眉をひそめた。

「……このにおい、オルグロストから帰還された時と同じか、」
「え? なにか云った?」
「……シリル様、」
「なぁに?」
「いえ、なんでもありません。」

 ねぐらまでついてきたディランは、ほかの世話役に湯の準備を云いつけたが、シリルのほうでそれをことわった。
「あっ、湯浴ゆあみなら、いいよ。さっき、温水地で入浴したんだ。」
「それは、おひとりで……?」
「うん。ひとりでだよ。」
 ゼニスは見ていただけなので、シリルは事実を述べている。だが、シリルは人間のオスと、どこかで接点を持ったはずと、ディランは内心でかんぐった。
「……では、お休みになりますか。」
「う~ん、そうだね。お父さんはまだ寝てる時間だし、報告はあとにしよっと。……お昼寝するから、ディランも出ていっていーよ。」
「いいえ。私はシリル様のおそばを離れるつもりはございません。」
「そうなの?」
「はい。それが私の役目ですから。」
「そうだったね。ディランは、ずっと前からぼくのそばにいるもんね! たまには、昔みたいに一緒に寝ようよ。」
 シリルは衣服を脱ぐと、寝台ベッドをぽんぽんと軽く手で叩いた。ディランは成獣につき、シリルとふたりで寝台を使うには、いくらかせまい。だが、云われたとおり寝台に近づくと腕を引かれた。ボスッと倒れ込むディランに、シリルがまたがってくる。

「……シリル様、」
「ぼくが今より小さいころ、こうやって上に乗って遊んだよね。」

 シリルから胴体に馬乗うまのりされたディランは、やや対処に悩んだ。あまりにも、シリル側の言動がおさなく感じられた。ディランはすでに、獣王からシリルの伴侶になる意志を問われている。すぐには承認せず、あえて返答を先のばしたディランだが、シリルに対する感情は誤魔化ごまかしようがない。互いの下半身が密着する状況につき、性欲があおられた。
 ディランの欲望など何も知らないシリルは、たくましい胸板を枕がわりにして眠りについてしまう。

「……シリル様。……失礼します。」

 ディランはひとこと詫びてから、シリルのカラダを反転させると、静かな呼吸を見まもりながら髪をでた。「くぅ、くぅ」と咽喉のどを鳴らすシリルに、そっと口づける。ディランはそうして、何度も口唇くちびるを奪ってきたが、シリルは、まったく気づいていなかった。

「……シリル様。私はあなたを、いつかつまとしてめとりたいと思っています。……ですが、あなたは、いったい誰を愛しているのですか。」

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