82 / 364
第 81 話
しおりを挟むシリルは両性具有である。ゼニスはまだ、その事実を知らされていなかった。
オルグロストで起きた内乱は、各地に悪影響を及ぼしていたが、ゼニスは国境まで無事にたどり着いていた。シリルと遭遇した荒れ地の衝突はすでに鎮圧されていたが、ゼニスはべつの道程から、コスモポリテスに向かった。オルグロストから隣国へはいるには、いくつかの山を越えなければならない。人間の足で3日を要する距離につき、途中で野宿は必須だった。
シリルの表情や言動はずいぶん明るくなり、惨事の記憶は封印でもしたかのように、ふるまっている。長時間歩き続けても疲労感は見られず、本来の基礎体力はシリルのほうがずっと上だった。
西陽が傾きはじめ、ゼニスは野宿できそうな木陰を探した。草原に腰をおろすと、携帯食のげんし肉をちぎって分け合った。
「ひとつ、訊いていいか。」
「うん、いいよ~。」
めずらしく声をかけられたシリルは、胡座をかくゼニスの真横まで膝を擦り寄せてきた。隣り合って座ると「なあに?」と云って、かわいらしく首を傾げる。すべての仕草が同い歳には見えなかった。とはいえ、相手は獣人につき、色々と勝手がちがうのだろうと理解した。それにしても、シリルの態度には違和感を憶えてならない。長旅の最中、獣人について学習しようと考えたゼニスは、いちばん重要な点を訊ねた。
「おまえは、雌なのか?」
口にしたゼニス本人も、ばかばかしい科白だと思った。シリルの裸身は何度も見てきている。カラダのつくりは少年そのもので、女性らしさはまったくないが、成獣となった暁には生殖行為を要求されているため、何かが矛盾していた。ゼニスの問いに、シリルは、くすッと笑う。
「そうだよ。ぼくは女の子なんだ。」
「だが、おまえの身体は男だ。おれと変わらない。」
「うん。今はね。そのうちにおっぱいがふくらんで、発情するよ。」
「……それはどういう意味だ。」
「えっと、なんて云ったかな。うーんと……、あっ、女体化だ!」
「なに?」
「ぼくは、両性具有なんだって。だから、成獣になって発情した時は、ゼニスに交尾してもらわなきゃ、赤ちゃんが産めないんだ。」
「おまえ、本気で云ってるのか、」
「もちろん。ほら、証拠もあるよ。」
シリルは口を大きく開けると、舌をだして見せた。辺りは暗くなっていたので、ゼニスは顔を近づけて確認した。すると、奥のほうに紫色の痣のような徴を発見した。三日月の形をしている。
「見えた?」
「……ああ。」
「口の中にお月さまがあるでしょ? これは両性具有の特徴で、ええっと……、性紋なんだって。」
「……おまえは、今より成長すれば女になるのか?」
「たぶん、見た目は変わらないよ。このまま大きくなると思う。でも、ゼニスと夫婦になるんだ。」
シリル自身も曖昧な情報を語っていたが、ゼニスは真剣に聞き入れた。冗談として笑い飛ばせない内容の話である。シリルの正体は獣人の獣王子で、さらなる真実が両性具有だと判明した。ようやく、不可解な言動に、つじつまが合う。ゼニスは沈黙したが、シリルは地面に寝そべって欠伸をした。
「ふぁ~あ。朝から動くと、夜には眠くなるんだね。……人間の生活って、おもしろいや。」
現在のシリルは、人間の活動時間に合わせて行動している。それはコスモポリテスに帰還しても、継続事項となった。〔第39話参照〕
シリルは寝息を立てはじめたが、ゼニスは思考を停止せず、考えを整理していた。シリルは本気で自分と夫婦になるつもりでいる。しかし、ゼニスは獣人と生涯をともにする予定はない。もとより、結婚願望を持ち合わせておらず、他者に関心を示さなかった。シリルの場合、いきなり生殖行為を要求する感覚は、獣人ならではだろうと思われた。本来ならば、互いに好感の持てる相手と交際期間をもうけた後、同意の上で肉体関係へと発展する順序が望ましい。
今のところ、思い描く未来が完全にすれ違うふたりだけの旅は、もうしばらく続く。
* * * * * *
1
お気に入りに追加
178
あなたにおすすめの小説
ポンコツ女子は異世界で甘やかされる(R18ルート)
三ツ矢美咲
ファンタジー
投稿済み同タイトル小説の、ifルート・アナザーエンド・R18エピソード集。
各話タイトルの章を本編で読むと、より楽しめるかも。
第?章は前知識不要。
基本的にエロエロ。
本編がちょいちょい小難しい分、こっちはアホな話も書く予定。
一旦中断!詳細は近況を!
【R18】お嫁さんスライム娘が、ショタお婿さんといちゃらぶ子作りする話
みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。
前話
【R18】通りかかったショタ冒険者に襲い掛かったスライム娘が、敗北して繁殖させられる話
https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/384412801
ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで
【完結】転生してどエロく嫁をカスタマイズした
そば太郎
BL
BL小説やゲームが大好物な俺が、仕事帰りに神様のミスで死んでしまった。神様からは、補償特典をつけて、異世界に転生させてくれるって。まじか?
俺は、、、俺が願うのは、、、エロい嫁が欲しい!お願い。神様、俺専用の嫁が欲しいです!
ガチムチ、男前、雄っぱいがむちむちな、すっごーいどエロい嫁が欲しいです!ちなみに、どエロい程度は俺基準です!
※主人公攻め 嫁一筋 浮気はしません!
※作者自身が、文章作成スキルを持ち合わせてないので、設定が甘かったり、文章がつたないのは、スルーしてください!すみません。
※キーワードが注意
※最初の方は、嫁不在のため、他CPのHがあります!両親のHもでてくるので。注意
※中盤以降マニアックプレイ気をつけてください!
※ムーンさんでも投稿してます!
軟禁兄弟
ミヒロ
BL
両親の不仲に耐えられず、家出した優、高校1年生。行き場のない優はお兄さんに養われていたが...。
※表紙イラスト as-AIart- 様(素敵なイラストありがとうございます!)
過ちを犯した王太子妃は、王太子の愛にふたたび囚われる
ごろごろみかん。
恋愛
あの日、王太子妃ニルシェは過ちを犯してしまった。
自分のことだけを考え、結果として、いちばん大切なひとを傷つけてしまった──。
これは贖罪なのか、それとも罰なのか。
悲愴の死を迎えたニルシェは、ふたたび生を受け、新しい人生を送ることになる。
今さら、私に構わないでください
ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。
彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。
愛し合う二人の前では私は悪役。
幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。
しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……?
タイトル変更しました。
番+メイド+ペット+肉便器
アズサ
恋愛
まぁまぁお金持ちの貴族の家の不義の家の子として生まれたソフィアは12歳になったある日、市民街に捨てられた、そんな時に当時14歳だった王太子であったルカディオが番であったソフィアを見つけ、、
クソみたいな話です。
最凶の悪役令嬢になりますわ 〜処刑される未来を回避するために、敵国に逃げました〜
鬱沢色素
恋愛
伯爵家の令嬢であるエルナは、第一王子のレナルドの婚約者だ。
しかしレナルドはエルナを軽んじ、平民のアイリスと仲睦まじくしていた。
さらにあらぬ疑いをかけられ、エルナは『悪役令嬢』として処刑されてしまう。
だが、エルナが目を覚ますと、レナルドに婚約の一時停止を告げられた翌日に死に戻っていた。
破滅は一年後。
いずれ滅ぶ祖国を見捨て、エルナは敵国の王子殿下の元へ向かうが──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる