恭介の受難と異世界の住人

み馬

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第 80 話

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 なりゆきでシリルと旅をするゼニスだが、丸5日間カラダを洗えていない点が気になった。衣服ころもからも汗の臭いが鼻につく。地図によると、近くに川が流れているため、本来の道程ルートはずれて沐浴もくよくをすることにした。

「わぁ、川だぁ。ぼく、水浴みずあびしたいな。」 
「ああ。好きにしろ。」

 そのつもりで遠まわりをしたゼニスは、サックや腰のつるぎを岩の上に置くと、衣服を脱ぎ始めた。シリルはワンピース姿のまま、バシャバシャと水の中にはいってゆくと、ドボンッといきなり深くなったところで裸身はだかになる。無邪気に水を浴びるシリルは、まるで幼い子どものようで、ゼニスは無意識に微笑びしょうした。
 ゼニスは下半身の目隠しをするため薄い布を腰に巻くと、衣服を洗濯して草の上に広げた。続いて、背中の包帯をいてゆく。痛みはおさまっていたが、傷痕きずあとは消えずに残っていた。戦場で深傷ふかでを負ったにもかかわらず、わずか数日で元の状態に復している。シリルの唾液だえきを呑まされたゼニスは、聴覚も異常な発達を遂げていたが、原因の本人へ問いただそうとは思わなかった。

「ゼニスもこっちへおいでよ!」

 シリルに手を振られ、ゼニスも川の中へはいった。透明な水底みなぞこに、魚のウロコが光って見える。水草みずくさの陰に小海老こえびもいて、どれも食糧になりそうだった。あんじょう、水中に潜ったシリルは、魚を手掴てづかみでとらえるとナマのままガブッとかじった。ゼニスの分は、脱いだ衣服にくるまっていた。人間の場合、川魚は焼いて食べるのが基本につき、ゼニスは腹拵はらごしらえを先に済ませるため、岸に戻った。
 枝を集めるとサックの中から道具を取り出して、火をける。黙々と焼き魚を食べ終えると、水辺みずべでカラダを洗った。シリルはプカプカと浮いたりして遊んでいたが、しばらくすると、ゼニスのほうへ泳いできた。

「……ねぇ、ゼニス。」
「どうかしたのか。」
「うん。思ったんだけど、ぼくがコスモポリテスに着いたら、ゼニスはどうするの?」
「どうもしない。おれは傭兵ようへいだからな。」
ようへい、、、、って、なに?」
「直接に利害関係のない戦争に参加して金銭をもらう、やとわれ兵だ。」
「いっぱいたたかってきたの?」
「ああ。」
「……でも、これからはあぶない仕事ことはやめてほしいな。」
「なんだよ、急に。」
「だって、ゼニスが死んじゃったら悲しいし困るもの。」

 シリルはそう云って背後にまわると、背中の傷痕を指でなぞった。それから、両腕を前に持ってきて、ゼニスの背面にぴったりくっついた。腰の高さまで水にかっていたが、太腿の裏側にシリルの未熟な部位が密着するゼニスは、その感触に一瞬変な顔をした。ただし、シリルの精神年齢は幼いため、極端きょくたんに意識せず会話を続けた。

「あのな、勝手に人を殺すなよ。」
「どうしても、ようへいじゃなきゃダメなの?」
「おれの性分しょうぶんに合ってるからな。」
「それじゃあゼニスは、指示をされたら獣人けひとも切るの?」
「さぁ、どうかな。内容にもよる。」
「自分から戦いに行くなんて、もうやめてよ。これは、ぼくからの命令だ。」
 シリルは正面にまわり込んで、ゼニスの顔を見つめた。
「ねぇ、約束して。ようへいは、やらないって。」
「おれを無職にしたいのかよ。」
「新しい仕事を始めればいいよ。ぼくが一緒に探してあげる!」
 ゼニスはのちに、コスモポリテスの監視塔サーベイランスで働くことになる。だが、この時のゼニスはシリルの言葉にうなずいておらず、話題を変えた。

「いつまでも水に浸かってると、風邪を引く。カラダが冷える前にでるぞ。」

 ゼニスはシリルの肩を軽く押して距離を取ると、乾いた衣服にそでを通した。あとからやってきたシリルは、草の上に大の字で寝そべり、陽光を浴びている。自然乾燥のつもりらしいが、その姿はあまりにも無防備につき、ゼニスは唖然とした。せめて急所だけでも隠すべきだと思い、手巾ハンカチを添えようとしたが、シリルから「要らない」と拒否された。
「おまえは獣王子おうじなんだろう? 大事なところを丸出しにするな。」
「……じゃあ、ゼニスが接吻キスしてくれたら云うとおりにする。」
「なんだと?」
 シリルは上体を起こすと、瞼をとじて見せた。ゼニスは「ふざけるなよ」と毒気づくも、仕方なくキスをれてやる。口唇くちびるれ合うと、シリルの肩がピクンッと反応した。

「……んっ、ゼニスぅ、」

 シリルは好きな男の吐息を呑み込んで咽喉のどふるわせたが、ふたりの関係は恋人ではないため、ゼニスはあえて、、、舌をからめなかった。

     * * * * * *
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