81 / 364
第 80 話
しおりを挟むなりゆきでシリルと旅をするゼニスだが、丸5日間カラダを洗えていない点が気になった。衣服からも汗の臭いが鼻につく。地図によると、近くに川が流れているため、本来の道程を外れて沐浴をすることにした。
「わぁ、川だぁ。ぼく、水浴びしたいな。」
「ああ。好きにしろ。」
そのつもりで遠まわりをしたゼニスは、サックや腰の剣を岩の上に置くと、衣服を脱ぎ始めた。シリルはワンピース姿のまま、バシャバシャと水の中にはいってゆくと、ドボンッといきなり深くなったところで裸身になる。無邪気に水を浴びるシリルは、まるで幼い子どものようで、ゼニスは無意識に微笑した。
ゼニスは下半身の目隠しをするため薄い布を腰に巻くと、衣服を洗濯して草の上に広げた。続いて、背中の包帯を解いてゆく。痛みは治まっていたが、傷痕は消えずに残っていた。戦場で深傷を負ったにも係わらず、わずか数日で元の状態に復している。シリルの唾液を呑まされたゼニスは、聴覚も異常な発達を遂げていたが、原因の本人へ問いただそうとは思わなかった。
「ゼニスもこっちへおいでよ!」
シリルに手を振られ、ゼニスも川の中へはいった。透明な水底に、魚のウロコが光って見える。水草の陰に小海老もいて、どれも食糧になりそうだった。案の定、水中に潜ったシリルは、魚を手掴みで捕えると生のままガブッとかじった。ゼニスの分は、脱いだ衣服に包まっていた。人間の場合、川魚は焼いて食べるのが基本につき、ゼニスは腹拵えを先に済ませるため、岸に戻った。
枝を集めるとサックの中から道具を取り出して、火を点ける。黙々と焼き魚を食べ終えると、水辺でカラダを洗った。シリルはプカプカと浮いたりして遊んでいたが、しばらくすると、ゼニスのほうへ泳いできた。
「……ねぇ、ゼニス。」
「どうかしたのか。」
「うん。思ったんだけど、ぼくがコスモポリテスに着いたら、ゼニスはどうするの?」
「どうもしない。おれは傭兵だからな。」
「ようへいって、なに?」
「直接に利害関係のない戦争に参加して金銭をもらう、雇われ兵だ。」
「いっぱい戦ってきたの?」
「ああ。」
「……でも、これからは危ない仕事はやめてほしいな。」
「なんだよ、急に。」
「だって、ゼニスが死んじゃったら悲しいし困るもの。」
シリルはそう云って背後にまわると、背中の傷痕を指でなぞった。それから、両腕を前に持ってきて、ゼニスの背面にぴったりくっついた。腰の高さまで水に浸かっていたが、太腿の裏側にシリルの未熟な部位が密着するゼニスは、その感触に一瞬変な顔をした。ただし、シリルの精神年齢は幼いため、極端に意識せず会話を続けた。
「あのな、勝手に人を殺すなよ。」
「どうしても、ようへいじゃなきゃダメなの?」
「おれの性分に合ってるからな。」
「それじゃあゼニスは、指示をされたら獣人も切るの?」
「さぁ、どうかな。内容にもよる。」
「自分から戦いに行くなんて、もうやめてよ。これは、ぼくからの命令だ。」
シリルは正面にまわり込んで、ゼニスの顔を見つめた。
「ねぇ、約束して。ようへいは、やらないって。」
「おれを無職にしたいのかよ。」
「新しい仕事を始めればいいよ。ぼくが一緒に探してあげる!」
ゼニスは後に、コスモポリテスの監視塔で働くことになる。だが、この時のゼニスはシリルの言葉に頷いておらず、話題を変えた。
「いつまでも水に浸かってると、風邪を引く。カラダが冷える前にでるぞ。」
ゼニスはシリルの肩を軽く押して距離を取ると、乾いた衣服に袖を通した。あとからやってきたシリルは、草の上に大の字で寝そべり、陽光を浴びている。自然乾燥のつもりらしいが、その姿はあまりにも無防備につき、ゼニスは唖然とした。せめて急所だけでも隠すべきだと思い、手巾を添えようとしたが、シリルから「要らない」と拒否された。
「おまえは獣王子なんだろう? 大事なところを丸出しにするな。」
「……じゃあ、ゼニスが接吻してくれたら云うとおりにする。」
「なんだと?」
シリルは上体を起こすと、瞼をとじて見せた。ゼニスは「ふざけるなよ」と毒気づくも、仕方なくキスを呉れてやる。口唇が触れ合うと、シリルの肩がピクンッと反応した。
「……んっ、ゼニスぅ、」
シリルは好きな男の吐息を呑み込んで咽喉を慄わせたが、ふたりの関係は恋人ではないため、ゼニスはあえて舌を絡めなかった。
* * * * * *
10
お気に入りに追加
184
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる