58 / 364
第 57 話
しおりを挟む長い夜だった。領主から首を絞められた恭介は、王子の寝室に運ばれてきた消毒液とガーゼで手当てを受けると、ジルに誘導されるカタチで寝台へ移動した。そこで、戯れる自由をゆるされた。
「……んっ、……キョースケ、」
恭介はジルのカラダを仰臥させると、ゆっくり覆い被さり、口唇を重ねた。キスだけでは物足りなく感じた恭介は、織物に手をかけて衿をひらくと、袖から腕を引き抜いた。片側だけ露になった胸の突起を愛撫する。
「キョースケ、そこは……っ、」
刺激を受けた乳頭はピンッと張りつめて硬くなり、ジルは「あっ、あっ」と云って当惑した。
「……乳頭、舐めちゃダメか?」
クニクニと指先だけで乳首に触れる恭介に、ジルは顔を真っ赤にして憤慨した。
「あ、当たり前だっ! 調子に乗るでないっ!!」
「だよな。さすがに、これくらいが限度だろう。ジルヴァンこそ、なんでこんな風に肌をゆるしたンだ? 共寝だって、まだいちどもねぇのに。まさか、ご褒美のつもりじゃないよな?」
ジルは上体を起こして衿を合わせ直すと、恭介の胸もと目がけて枕を投げつけた。
「みなまで申すな! 恥ずかしかろう!!」
「ははっ、やっぱり図星か。」
「むぅっ、キョースケ!」
ジルは、むやみに腕を振りまわしてくる。恭介は情人であることを、改めて実感した。寝台の上で王子と過ごせる人間は(今のところ)自分ひとりしかいない。領主に正体を明かせば、何かしらの攻撃を喰らうだろうと思っていたが、ジルの体面を守るため、恭介は一切抵抗しなかった。ジルは恭介の首筋に貼りつけたガーゼを見つめ、「すまなかった」と、ひとこと詫びた。
「こんな傷どうってことないさ。そんなに気落ちすんなって。……それより、ありがとうな、ジルヴァン。もしかして、オレが最初に期待するなとか云ったから、共寝に呼べずにいるのか? だったら忘れてくれ。キミが望めばいつでも抱きに行く。オレに、忠誠を誓わせてほしい。」
恭介はジルの左手を持ちあげると、指先にキスをした。さすがに、好きだと告白する訳にはいかない。王子にとって情人とは、一方的に縁を断ち切ることができる存在でもある。
(オレに惚れているうちに抱かせてもらわなきゃ、こっちが損失だしな……)
当初、同性に恋愛感情を抱く自分自身を想像できずにいた恭介は、情人になることは利害関係(職を得る目的)を優先しての決断だった。とはいえ、一線を越えてみなければ、生理的葛藤は払拭不可能である。
(精神的なつながりも大事だろうけど、カラダの相性は実際に試さなければ、判らないもんな……)
恭介は、王子の好意を独占する自信を持てずにいたが、共寝の件は前向きに考えていた。
(オレも、領主ばかりを非難できねーな。すっかりジルヴァンに欲情するカラダになっちまってるぜ……)
下半身がムラムラしてきた恭介は、ジルに気づかれないよう昴揚を落ちつかせた。
「キョースケよ。おれの用事は、あすですべて終わる予定だから、明後日の午前中は、ふたりで町に出かけようではないか。」
ジルは、ときどき一人称が“おれ”になる。恭介は妙な気分になるが、ふしぎな魅力を放つオッドアイの双瞳に見つめられると、そんな事柄はどうでもよくなった。
「ああ、そうしよう。オレも土産物を買いに行きたかったんだ。」
ザイールやボルグ、それとアミィへの手土産を買う必要があるため、ジルの提案に乗った。
「夜は、北の天文台に寄って、北斗七星を観てから帰ることにしよう。」
領主から得た情報を語るジルは、嬉しそうに笑う。しばらくの間、平穏な時間が流れた。
(城に戻ったら、また、当分は会えなくなるのか? せめてジルヴァンが王子でなけりゃ、もっと恋人同士らしい付き合い方ができたのに……)
恭介は己の身分を、初めて残念に思った。今更ながら、領主の言葉が脳裏に引っ掛かる。
(ジルヴァンを支えてやるのは、たぶん、無理な話だ。ずっと側に居られるわけじゃないし、金銭面で勝てるはずがない。相手は王族だぞ? この先、オレはジルヴァンに何を与えてやれるンだろうか……)
ジルは未婚男士で受け身につき、情人として存在するだけで意義は充分あった。だが、恭介は、たんなる閨事の相手として選ばれたつもりはない。好きなひとのためにできることはないか、真剣に考えはじめた。
* * * * * *
1
お気に入りに追加
184
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる