恭介の受難と異世界の住人

み馬

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第 49 話 〈王国の内政事情〉

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 コスモポリテスの大地は、獣人族けひとぞくによってひらかれ、次第しだいに人間が移り住み統治してゆく中で、ふたつの異なる思想の集団が生まれた。当時のコスモポリテス王は弾圧を行使こうしせず、森林域に自治領を持つことを許した。やがて、独自の文化でさかえるまでに発展した集団は、地名に由来した“アルミナ自治領”と名称をさだめ、現在の領主りょうしゅは18代目に当たる。また、数百年前に独立国として認められ、コスモポリテス内に領土を持ちながら、各国との交易こうえきにも着手していた。

      * * * * * *

 恭介は、コスモポリテス城の東棟4階(執務室しつむしつ)で、提出された領収証に目を通しながら顔をしかめた。

「……あんの武官め。また、酒代を経費にまわしやがって、何度なんど注意すればわかるんだ。」
 
 ボルグの名前を見つけた恭介は、御品書欄おしながきらんを確認した。ボルグに限らず、地方遠征にでかける武官の多くは、土産物みやげものを国庫金で買いつけてくる。むろん、計上は受理じゅりできない事柄である。長机テーブルにひろげた伝票に検収印だけ、、を押すアミィは、恭介の渋い表情を見るなり、「ああ、それね~」と語りだす。
「キョウくんは行ったことあるかしら? ドミトリー橋の先にあるアルミナは、ブドウ畑が有名で、果実酒が特産品なの。毎年良質なデキ、、で、王宮にも献上けんじょうされる一品いっぴんなのよ~。」
「アルミナってたしか、自治領でしたよね、」
 帰宅後は、王立図書館で借りた世界史の書物を読むことが日課となっている恭介は、頭の中で位置関係を思い浮かべながら会話した。
「そうよ。今の領主は18代か、19代目だったかしら。まぁ、相変わらずこちら側コスモポリテスからは、そう簡単に訪問できない国よねぇ。」
「なぜですか?」
「もちろん、気位きぐらいの問題よ。周辺国に対して、領地の形象イメージを尊大に保ちたいからに決まってるじゃない。観光かんこうするにも、検問所で高~い入国料を払う必要があるし、誰も旅行気分ではおとずれない場所なの。」
「貴重だからって、果実酒を経費で落とせるわけがないでしょう。」
「う~ん、まぁ、それもそうよねぇ。いくら高価こうかなものとはいえ、自分用に買った場合はダメよね~。」
 アミィは、まるで他人事ひとごとのように口走る。恭介は、領収証の内容を精査せいさしながらたずねた。

「ジルヴァンは、元気ですか。」
 
 なんの前置きもなく訊ねたが、アミィは検収印を押す手を休め、ほぅっ、とため息を吐いた。
「それがねぇ、なんだか最近のジルさまってば、人使ひとづかいがあらいのよ。すぐに買い物に行かせるわ、なんでもいいから珍品を手に入れて来いとか、新しい衣装を作らせたりとか……、」
「ワガママを云うってことですか?」
「ちょっと、ちがうかしらねぇ。近日中に、どこかへ足を延ばす予定でもあるのかしら。」
「どうして、そう思うんですか。」
「え~? だって余処行よそいきの衣服ころも荷造にづくりしてたもの。あたしが買ってきた新品の雑貨も詰めてたわ。」
(100パーセント出かける準備だろ、それ)
 恭介は、ジルヴァンの目的地が少し気になった。 

「イシカワさま、こちらはどうなさいますか?」
「うん? ああ、振り分けが完了したら、箱に戻してくれ。」
「かしこまりました。」

 ここ数日、ジルヴァンのめいにより女官が交代で事務作業を手伝いに来ている。〔第45話参照〕
 彼女たちは、アミィよりも長く第6王子につかえるため、ジルヴァンの予定をさぐってみた。すると、恭介が左指にめる輪具リングの意味を理解する女官は、小声で話してくれた。
王子ジル様は明後日あさってから5日間、アルミナの交歓舞踏会こうかんぶとうかいへ参加するため、王宮を留守るすになさいます。」
「舞踏会?」
「はい。現在の領主様は3年前にあとを継がれた殿御とのごで、任命祝典へ随伴ずいはんされた王子ジル様と面識めんしきがあるのです。」
「へぇ、そうなのか。」
「……あの、イシカワさまに一言ひとこと申しあげてもよろしいでしょうか?」
 女官が急に改まった表情をするため、恭介は先をうながした。アミィは「ちょっとお手洗いに行ってくるわ~」と云って退室する。女官は、恭介とふたりきりの状態になってから告げた。
「どうか、ご同行を名乗り出てもらえませんか? アルミナの新しい領主様は、王子ジル様に恋文こいぶみを送るような人物につき、少ない従者だけで向かわせては危険かも知れません。」
 恭介はその助言を聞き入れて、後日、ジルと共にアルミナ自治領へ向かうことになる。

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