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第 41 話
しおりを挟むシリルは今、森の中にいる記憶は曖昧だったが、そんなことはどうでもよくなった。村へ帰ろうとして歩きだした途端、うまく足が動かずによろめいたが、背後から近づいてきた男に上膊を捉われた。
「ゼニス?」
シリルは肩越しに振り返るなり、パッと明るい表情へと変わる。
「ゼニスっ、ゼニスだ! ゼニスぅ!」
嬉しそうに何度も自分を呼ぶシリルを見おろして、ゼニスは手にした剣を腰の鞘へ納めた。
「無事か。」
と、短く訊かれたシリルは、なんのことだかわからず首を傾げた。ゼニスは上着を脱いで裸身のシリルへ着貸せると、視線を足許へ落とした。
「背が高くなっている。また一歩、成獣に近づいたようだな。」
云われてみれば、シリルの目の高さは、正面に立つゼニスの咽喉もとに達していた。わずか数時間で5センチも成長したシリルは、「わっ」と声をあげて驚いた。
「ホントだ、背が高くなった!」
それでもまだ、ゼニスのほうが10センチほど高い。シリルは、その場でぴょんぴょん跳ねた。
「はやく成獣にならないかなぁ。」
「そうやって飛び跳ねて、あまり膝に負担をかけないほうがいい。急激な発達を遂げたのだろうから、まだ骨格が不安定なはずだ。」
ゼニスの忠告も空しく、シリルはドタッと地面に転んでしまった。
「大丈夫か、」
「うん、平気だよ。大丈夫!」
村での散歩中に、なにもないところで足がもつれた理由は、成長ホルモンの活性化が働いて、うまく関節が駆動しなかったからである。獣人の成長段階は急速に身体へ影響を及ぼすため、たった1日で見た目が変貌したりもする。ただし、両性具有の場合は他者と比べてゆるやかにつき、シリルは実年齢よりも未だに幼く見えた。「えへへ」と無邪気に笑うシリルだが、ゼニスは眉をひそめ、安堵のため息を吐く。
ゼニスがシリルの元へ駆けつけた時、錯乱した盗賊の男により、肉体を貫かれる寸前だった。さいわい、シリルの純潔は守られたが、ゼニスは男を殺めている。そうするしかない状況につき、判断に迷いはなかった。もとより、人間に剣を振りかざすのは今回が初めてのことではない。ゼニスの本来の生業は、必要な場面に応じて、対峙した相手の生命を奪う傭兵なのだ。
「あれ? 血がついてる。」
ゼニスの上着の裾に、わずかだが盗賊の男の残留物質が付着していた。シリルは上着を脱いで鼻を近づけると、「ゼニスのじゃないね」と云って安心する。再び袖を通したが、すぐにまた脱いで裸身になる。
「……なんだか、おなかが痛い、」
シリルが腹部を痛がるため、ゼニスは膝をついて下半身の状態を確認した。すると、わずかに股のあいだから出血しており、原因は外傷ではなく月経によるものだと判断した。シリルのカラダの深部には子宮がある。その内膜がはがれ落ちたときに血管が断裂し、経血となって体外に流れるのだ。いわゆる、生理現象である。シリルの受精器官は、雄の精子を受け入れる態勢を整えている。両性具有に限らず、雌は月経が始まれば成獣となる前から妊娠は可能だが、シリルはその点を失念していた。
ゼニスは外衣の衣嚢から手巾を取りだすと、シリルの奥まった開口部へ指で触れ、経血を拭いた。
「……ゼニス、」
シリルは、うっとりとした表情でゼニスの髪を撫で、腰を慄わせた。ふだんの処理はディランに任せているため、ゼニスに初めて下世話をされたシリルは、これまでにない快感を覚えた。もっと積極的に肌へ触れてほしいと願う反面、そんな淫らな要求をしてはゼニスを困らせると思い、言葉に出さず呑み込んだ。どんな時も、ゼニスはけっして判断をまちがわない。シリルは、そんな男だからこそ心酔している。
「まだ痛むか、」
「……少しだけ、」
「なら、負ぶってやる。」
ゼニスはシリルを背負うと、両手を後ろにまわし、支える体重を背中に感じながら歩きだす。シリルはゼニスの首筋にしがみつき、「あっちだよ」「こっちだよ」と指で道案内をした。集落が近づくにつれ、シリルは「もっとゆっくりでいいからね」と云って、ゼニスの歩幅を調節し、少しでも長くふたりで過ごせるように、到着までの距離をのばした。
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