恭介の受難と異世界の住人

み馬

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第 36 話

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 恭介は、いつもは1時間ほど残業をしていたが、王立図書館から持ち帰った書物を読むため、定時ていじに仕事をあがり、ザイールと暮らす集合住宅へ戻った。先に帰宅していたザイールは、共用スペースの調理室で作った野菜スープの皿を「出来立てですよ。どうぞしあがってください」と云って、恭介に差しだした。
「おっ、サンキュー。腹ペコだったんだ。」
 皿を受け取るとき、ザイールは恭介が右手にめていた高価なクォーツ時計に目を見張みはったが、個人的なことにつき、なにもいてはこなかった。神殿プロメッサに奉職するサガらしく、他人の事情に土足どそくで踏み込む真似まねはしないようだ。
(……結局、ザイールには、オレが第6王子ジルヴァン情人イロだってこと、まだ話してねーんだよなぁ)
 そう簡単にけてよい事柄ことがらなのかどうか、恭介自身も判断に迷っていた。しかし、ジルヴァンとの関係は王室に公認されているため、いずれ、身近な人々にも知れ渡る機会がおとずれるだろうと思われた。
(……正直しょうじき、いつ呼ばれるかわからない身なのがツライぜ)
 ジルヴァンの日常は(アミィに聞くところによれば)平穏そうに思えたが、ふだんの生活ぶりが気にならないと云えば嘘になる。恭介は、自分のカラダがジルヴァンに反応することを自覚していた。そのため、心の準備は、とっくにできている。

 下心したごころを頭の中で打ち消すと、ありがたく野菜スープで空腹を満たした恭介は、定位置となっている長椅子ソファに座り、世界史の本をひろげた。目次もくじのページに、王立図書館の蔵書印ぞうしょいんが押してあった。

 ーコスモポリテス王国のいしずえ
 ・首都‥‥コスモポリテス
 ・神殿‥‥プロメッサ
 ・城下町‥‥ロロッカ
 ・中央広場‥‥アーテム
 ・王立図書館
 ・遺跡‥‥ルーイン
 ・天然温水地
 ・監視塔‥‥サーベイランス
 ・墓地‥‥グレイヴ
 ・アカデメイア河川
 ・漁場   
 ・川沿いの村‥‥ティム/サライア
 ・共同農作地帯
 ・獣人族領域
 ・自然界領域

 -その他-
 ・北の橋
 ・東の砦
 ・石切り場
 ・地下炭鉱
 ・南の林道(肉食動物棲息地)
 ・祭壇跡地
 ・交易互市
 ・古代大鳥の巣穴
 ・北東の国境(荒れ地)
 ・独立部隊宿舎(各地に点在てんざい

 -隣接国-
 ・クルセイド法国
 ・アルミナ自治領
 ・オルグロスト共和国
 ・ジオハーツ
             〔以下略〕

 見出みだしだけで6ページ以上つづいたが、勉強熱心なデュブリスが選んだ書物だけあり、細かな地図や用語解説も載っており、読み進めればこの世界について知識は深まりそうだ。
(……そう云えば、オレが意識を回復したあの遺跡は、なんの跡地あとちだったンだ?)
 恭介は目次を確認すると、まず最初に、この世界で目を醒ました場所である“遺跡ルーイン”について、調べることにした。たとえ元の世界に戻れなくても、なぜこのような、、、、、ふしぎな現象が発生したのか、少しでも原因をさぐりたかった。ページをひらいて目にした文字は、かつて、コスモポリテスは砂漠化しており、人間ひとが住める大地ではなかったという歴史である。長い年月ねんげつをかけ、土着どちゃくしていたわずかな獣人族けひとぞくによって、豊かな国へ変えていったと書いてある。
(つまり、コスモポリテスには、先に獣人がみついてたってことか……)
 少し意外に思いつつ、文章を目で追った。ある程度のところまで読んでわかった事実は、あの遺跡は獣人が構造つくったもので、現在は立ち入り禁止区域くいきに指定されている現状だった。
(あそこは、危険な場所に指定されているのか……? オレのスーツをいだあのチビッ子たちは、獣人だったのかもな……。あいつらも、みんな元気にしてるだろうか。無知ってのはゾッとするな)
 文字が細かすぎて睡魔すいまに負けそうになるが、なんとか読み進めるうち、妙な胸騒むなさわぎがした。

(なんだ? この嫌な感じは……)
 
 恭介は無意識に眉をひそめたが、いよいよまぶたが重すぎて、そのまま眠ってしまった。
    
     * * * * * *
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