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第 28 話 〈王立図書館にて〉
しおりを挟む↑第1話に載せたものと同じです。
配置の再確認までにどうぞ★
* * * * * *
コスモポリテスには、王立図書館と呼ばれる大きな公共施設がある。運営は国が管理しているため、館内で働く者は身分の高い人間ばかりだが、施設を利用する民間人も少なくない。基本的に誰でも出入りが可能であり、月にいちど、読書会なども開催していた。
「司書のおじさん、こんにちは。」
「おぅ、デュブリスか。おまえも飽きずによく来るよなぁ。」
「はい。漁が休みの日は、たいてい足を運んでいます。」
「夢中になれる書物でも見つけたのか?」
「ええ、そんなところです。」
「まあ、ゆっくりして行けよ。ここは、誰でも気軽に長居して構わない場所だからさ。」
「はい、そうさせていただきます。」
図書館を利用する際は、受付窓口で入館手続きを済ませる必要がある。デュブリス=デューイ=ディーフェーンは、城下町に暮らす漁夫のひとり息子だが、獣人族の生態と文化に関心を持っていた。受付で紐つきの番号札をもらい、首からさげて本棚へ向かうと、いつものようにブリューナク訳の叢書 〔第7話参照〕 を手に取った。近くで文庫の並べ替えをしていた図書館司書の男は、デュブリスの叔父につき、顔を合わせれば自然と会話が発生した。
「おぅ、そういえば知ってるか? 数日前に市場で、まだ若そうな獣人を見た奴がいるそうだ。しかも、黒い髪をした男と歩いていたらしいぞ。」
「おじさん、ぼくを揶揄うのはやめてくださいよ。そんな話、信じると思いますか?」
「いや、まぁ、おれも利用客が話していたのを小耳に挟んだ程度なんだが……。なんでも、そいつらと一緒にいたのは、腰から剣をさげた長身の男だったとか……、」
「ちょっと、おじさん。拍車を掛けてどうするんですか。そんなヘンテコな3人組が歩いていたら、町中に変な流言が立ちますよ。」
「だから、立ってるんだよ。ずいぶん前からな。」
「まさか、本当ですか?」
「う~ん、おれが実際に見たわけじゃないからなぁ。本当かどうかは別として、町ではその流言でもちきりらしいぞ。おれもデュブリスの家も川沿いだろう? 町の声はあまり聞こえてこないから、どうにもこうにも……、」
「きっと、見まちがえですよ。獣人が、人間と肩を並べて歩くはずがありません。だってほら、この本にも、そう書いてあります。」
デュブリスは、手にした叢書をひらいて見せた。獣人族の習性を長年に渡り研究したブリューナクという人物が編纂した著書である。
「どれどれ。えーと、“獣人は、ともに連れだって行くときめた伴侶か、互いに好意を認めた相手としか打ち解け合わず、その対象は同種族にかぎる”……ふうん、そうなのか、」
「その黒い髪の男と、剣を持った男がふつうの人間だとしたら、まず、獣人のほうから寄りつかないはずです。」
「そういうモンかねぇ? まあ、奴等は神経質っポイもんなぁ。」
「そうですよ。ですから、そんな3人組がいたとは思えませんね。」
デュブリスはそう断言すると、愛読書を何冊か脇に抱え、窓際の席についた。恭介の旅道中は、ちょっとした風説になっている。それだけ、シリルのふるまいは世間の常識とかけ離れていたが、その事実を知る民間人は存在しなかった(ゼニスは除外)。
その頃、コスモポリテス城では、恭介に壁際へ追い込まれたアミィは、イヤイヤと首を横にふり、嘆き声をあげていた。
「キョウくんったら、やめてぇっ、それ以上あたしに近づかないで~。」
「だったら、少しはマシな仕事をしてくださいよ。」
「きゃーっ!? キョウくんってば圧しが強いのね~。」
「そんな科白を云われても、オレは容赦しませんよ。」
「いや~ん、怒った顔もステキだわぁ。ゾクゾクしちゃう~。」
「アミィさん、正気ですか?」
「なによぅ。あたしは、ばかじゃないわよ~。非道いわねぇ。」
アミィの言動に恭介はがっくりと肩を落としそうになったが、ふざけている暇はない。1枚でも多く片付けるべき重要書類が、室内のあちこちに散らばっている。事務内官となった恭介の持ち場は、東棟の4階である。この室で奮闘する日常は、すでに始まっていた。
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