恭介の受難と異世界の住人

み馬

文字の大きさ
上 下
29 / 364

第 28 話 〈王立図書館にて〉

しおりを挟む


  ↑第1話に載せたものと同じです。
   配置の再確認までにどうぞ★

      * * * * * *

 コスモポリテスには、王立図書館と呼ばれる大きな公共施設がある。運営は国が管理しているため、館内で働く者は身分の高い人間ばかりだが、施設を利用する民間人も少なくない。基本的に誰でも出入でいりが可能であり、月にいちど、読書会なども開催していた。

司書ししょのおじさん、こんにちは。」
「おぅ、デュブリスか。おまえもきずによく来るよなぁ。」
「はい。りょうが休みの日は、たいてい足を運んでいます。」
「夢中になれる書物でも見つけたのか?」
「ええ、そんなところです。」
「まあ、ゆっくりして行けよ。ここは、誰でも気軽きがる長居ながいして構わない場所だからさ。」
「はい、そうさせていただきます。」
 図書館を利用する際は、受付窓口で入館手続きを済ませる必要がある。デュブリス=デューイ=ディーフェーンは、城下町に暮らす漁夫りょうしのひとり息子だが、獣人族けひとぞくの生態と文化に関心を持っていた。受付でひもつきの番号札をもらい、首からさげて本棚へ向かうと、いつものようにブリューナク訳の叢書シリーズ 〔第7話参照〕 を手に取った。近くで文庫の並べ替えをしていた図書館司書の男は、デュブリスの叔父おじにつき、顔を合わせれば自然と会話が発生した。

「おぅ、そういえば知ってるか? 数日前に市場で、まだわかそうな獣人けひとを見た奴がいるそうだ。しかも、黒い髪をした男と歩いていたらしいぞ。」
「おじさん、ぼくを揶揄からかうのはやめてくださいよ。そんな話、信じると思いますか?」
「いや、まぁ、おれも利用客が話していたのを小耳こみみはさんだ程度なんだが……。なんでも、そいつらと一緒にいたのは、腰からつるぎをさげた長身の男だったとか……、」
「ちょっと、おじさん。拍車はくしゃを掛けてどうするんですか。そんなヘンテコな3人組が歩いていたら、町中に変な流言うわさが立ちますよ。」
「だから、立ってるんだよ。ずいぶん前からな。」
「まさか、本当ですか?」
「う~ん、おれが実際に見たわけじゃないからなぁ。本当かどうかは別として、町ではその流言でもちきりらしいぞ。おれもデュブリスの家も川沿いだろう? 町の声はあまり聞こえてこないから、どうにもこうにも……、」
「きっと、見まちがえですよ。獣人けひとが、人間と肩を並べて歩くはずがありません。だってほら、この本にも、そう書いてあります。」
 デュブリスは、手にした叢書をひらいて見せた。獣人族けひとぞくの習性を長年ながねんに渡り研究したブリューナクという人物が編纂へんさんした著書である。

「どれどれ。えーと、“獣人は、ともに連れだって行くときめた伴侶はんりょか、互いに好意を認めた相手としか打ち解け合わず、その対象は同種族にかぎる”……ふうん、そうなのか、」
「その黒い髪のひとと、剣を持ったひとがふつうの人間だとしたら、まず、獣人のほうから寄りつかないはずです。」
「そういうモンかねぇ? まあ、奴等やつら神経質しんけいしつっポイもんなぁ。」
「そうですよ。ですから、そんな3人組がいたとは思えませんね。」
 デュブリスはそう断言すると、愛読書を何冊か脇にかかえ、窓際まどぎわの席についた。恭介の旅道中は、ちょっとした風説になっている。それだけ、シリルのふるまい、、、、は世間の常識とかけ離れていたが、その事実を知る民間人は存在しなかった(ゼニスは除外)。

 その頃、コスモポリテス城では、恭介に壁際へ追い込まれたアミィは、イヤイヤと首を横にふり、なげき声をあげていた。
「キョウくんったら、やめてぇっ、それ以上あたしに近づかないで~。」
「だったら、少しはマシな仕事をしてくださいよ。」
「きゃーっ!? キョウくんってばしが強いのね~。」
「そんな科白セリフを云われても、オレは容赦しませんよ。」
「いや~ん、おこった顔もステキだわぁ。ゾクゾクしちゃう~。」
「アミィさん、正気しょうきですか?」 
「なによぅ。あたしは、ばかじゃないわよ~。非道ひどいわねぇ。」
 アミィの言動に恭介はがっくりと肩を落としそうになったが、ふざけているひまはない。1枚でも多く片付かたづけるべき重要書類が、室内のあちこちに散らばっている。事務内官となった恭介の持ち場は、東棟の4階である。このへやで奮闘する日常は、すでに始まっていた。

         * * * * * *
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

少年達は淫らな機械の上で許しを請う

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

待てって言われたから…

ふみ
BL
Dom/Subユニバースの設定をお借りしてます。 //今日は久しぶりに津川とprayする日だ。久しぶりのcomandに気持ち良くなっていたのに。急に電話がかかってきた。終わるまでstayしててと言われて、30分ほど待っている間に雪人はトイレに行きたくなっていた。行かせてと言おうと思ったのだが、会社に戻るからそれまでstayと言われて… がっつり小スカです。 投稿不定期です🙇表紙は自筆です。 華奢な上司(sub)×がっしりめな後輩(dom)

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...