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第 18 話
しおりを挟む謎の男と手を組んだ恭介は、まず、共同浴場へ引き返し、ご自由にお使いくださいと添え書きしてある幅広の布を1枚抜き取った。城外への脱出を計画するわりに、男は派手な格好をしているため、その布を頭から被せることにした。
「そんなものは要らん。」
「でも、キミの容姿は目立つから、少しはこれで隠したほうがいい、」
無理やり布を被されそうになった男は、本性の片鱗を垣間見せる。
「貴様っ、気安く吾に触れるな!」
「うわ、ばかか? 声量を抑えろよ、」
男が高い声をだすので、恭介は咄嗟に手のひらで口を覆った。今は緊張感のほうが強く、男の口調が変化したことにまで意識は及ばなかった。
「むぐっ!? むぐぐ!!」
「おい、静かにしろって。誰にも見つかるわけには、いかないンだろうが、」
「むぐっ、」
「いいな? 絶対に騒ぐなよ?」
恭介は人差し指を立てると、男の口唇に添えて念をおす。
「貴様、よくも……、」
なにやら怒り心頭に発するようすで、男はワナワナと肩を揺らすが、恭介の言い分が正しいため、深呼吸をして自ら冷静さを取り戻す。
「ふん、しかたないからがまんしてやる。」
文句を云いつつ、恭介の手から布を奪い取り、頭から被ると「これでいいか」と訊く。横髪が硝子細工のイヤリングに引っか掛っている。気になった恭介が指で整えてやると、男の表情は不自然に硬張った。
(うん? なんだ……?)
「ひょっとして、キミは潔癖症なのか?」
「いきなりなんだ。」
「いや、なんとなくさ。違うならいいよ。さてと、どうやって外に向かうとするかね。」
共同浴場は1階に位置していたが、城門からは少し離れている。来た道を戻るだけでは誰かとすれ違う可能性があるため、遠回りをすべきだろう。恭介は壁の窓に近づき、周囲を確認した。
(朝早いだけあって、浴場付近にいる人は少ねぇんだよな。問題は窓から出たあとだな。向うに見える建物は人が多そうだから、ひとまず壁沿いに行けば、植木もあるし、逃げ道があるかも知れない……)
頭の中で脱出経路をさぐり、まずは廊下の窓を越えることにした。男を手招きし、先に窓枠へ登らせる。その際、男の背中を支えようとして伸ばした腕を「触んな」と云って拒まれた。
(なんか、やけに触れられるのを嫌がるような? さっきは、そっちからキスしてきたくせに、何を考えているのかわからない奴だな、まったく……)
地面へ着地した男を確認後、恭介も窓から飛び降りると、身を低めて歩きだす。雨水を集めて排水させる筒状の建材を発見した恭介は、城壁を越えるなら、下からではなく上だろうと思った。うしろからついて来る男にそう意見すると、庭園の先に非常階段が設置されているから、南棟へ向かえと指示を寄越す。
(……庭が近くにあるのか。と云うか、そんなことまで知っているのなら、わざわざオレなんか頼らなくても、ひとりで脱出できたンじゃねーの?)
男の最終目的を知らずに協力者となった恭介だが、王室を震撼させる出来事に、既に巻き込まれていた。
「そこの渡り廊下を行けば、庭園の垣根が見えてくる。」
「よし、行こう。いや、待てよ。人がいないかどうか、まずはオレが見てくるから、キミは動かずにここにいろ。」
恭介はそう云って男を植込に残すと、ひとりで向かった。さいわい、共同浴場から現在地まで、誰にも行き遭わずに移動できたが、ここからは城内を横切る必要があるため、より慎重さが問われる。四つん這いになって渡り廊下へ近づき、人気のないうちに垣根まで前進すると、庭園のようすを注視した。
よく手入れのされた庭木の真ん中に、石材を彫刻してつくった像が設置されている。硬度のある大理石で彫像された作品は、鋭い爪と嘴をした猛禽類である。身を隠すにはちょうどよい高さと幅があるため、恭介は男を呼び寄せると、石像の側で背中を丸めた。だいぶ順調である。恭介は、このまま成功することを願った。
(うまくいけば、仕事を紹介してもらえるしな……)
「それで? キミの云う非常階段とやらはどこにあるんだ、」
「あそこだ。」
男が指で示したほうへ目を向けると、常緑樹の蔦がからまる胴製の古い扉が見えた。
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