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第 13 話 〈会計士石川恭介〉
しおりを挟むコスモポリテスの官吏であるザイールは、恭介よりいくつか年齢は若く、神を祀る神殿に奉職する神官である。自らの不注意により恭介の身分を私奴で登録してしまったと白状され、返す言葉に悩んだ。
(にしても、なんで人の用足しをのぞき見したンだよ。意味不明だぜ……)
ザイールに下半身を直視されたが、恭介は変に意識せず会話を続けた。
「つまり、オレは雑用人として生きるしかないのか?」
「そんなことはございません。必ず、どうにか致します。しかし、すぐには無理なので、あなたの生活はわたしが面倒をみます。どうか、ご容赦いただけますか、」
「うーん、まぁ、わざとじゃないなら、仕方ねぇよな。オレのほうこそ、厄介になってもいいのか?」
「はい、大丈夫です。ぜひ、わたしの住居へいらしください。キョースケさまおひとりくらい養ってみせます!」
力んで拳をつくるザイールだが、恭介は彼の粗忽な一面を懸念した。
ザイールと共に向かったのは、城砦と神殿の間に建つ、関係者住居だった。階段をのぼって3階の部屋に案内されるが、玄関先から物があふれており“ごちゃっ”としていた。机に置けばよいものを床へ放置してあるため、足の踏み場が少ない。恭介が皮靴を脱ごうとすると、そのままでけっこうですと云われた。
「お邪魔します。」
恭介は土足であがり、室内を見まわした。間取りは衣食住をする四角い部屋と寝室があるのみで、風呂場やトイレは設置されていない。台所もないが、簡易的な洗面台と収納家具は備わっていた。
「お手洗いは廊下をでて右側になります。食事につきましては、朝と昼は1階の食堂を利用できますが、夜は調理室で自炊をするか外食となります。入浴は城内にある共同浴場を使いますが、われわれ内務官は21時までと決まりがありますので、足を運ばれる際は、時間にお気をつけください。あとで使用許可を申請しておきますね。」
ザイールは床に散らばった書物や衣服を避けて歩き、寝室の引き戸を開けた。
「本日から、こちらをご利用ください。部屋にあるものは自由に使ってかまいません。」
「いや、オレがキミの寝台を占領するわけにはいかないよ。世話になるのはこっちだし、適当にくつろがせてもらうから、寝室はプライベート空間にしておけよ。」
「プライベート?」
「ああ、私用って意味だ。夜は、そこにある長椅子で寝るから、オレのことは気にしないでくれ。」
そう云って、恭介は見つけた長椅子に近づき、山のように積まれた私物を片付け始めた。色々と埃っぽいため窓を開けると、城砦の一部が見えた。異国情緒が視野にひろがり、つい感傷的になるが、すぐに気を取り直した。ザイールは調理室へ向かい、30分ほどで食べものを作って戻り、恭介に合鍵を差しだした。
「わたしは週にいちど、宿直という泊まり込みの業務がありますので、部屋の鍵を渡しておきますね。何か不便がございましたら、遠慮せず申してください。」
「ああ、わかった。親切にありがとう。」
恭介は食事の膳と合鍵を同時に受け取り、礼を述べた。これから当面の間、ザイールとの同居生活が続くことになる。
だがしかし、いい大人が3食昼寝つきの日常を送ってばかりいられない。恭介は、自分にできることはないか思案した。
(いちおう社会人だし、きちんと働いて自立すべきだろう。いくらここが異世界とはいえ、このまま誰かの世話になりっぱなしは、よくねぇよな。それにはまず、職を探さないと。体力仕事より、頭を使うほうが合ってるンだが……)
世間の情報を少しでも得ようとして、部屋にある机の抽斗を勝手に開けると、恭介の口も半開きになった。
「なんだ、これ。レシートか?」
抽斗の中には、長方形の白い紙切れが大量に詰まっていた。1枚だけ手に取ると、商品名や合計金額が記入されており、領収証のように見えた。そのほかの紙片もいくつか確認すると、ザイールが購入したと思われる物品の内訳が印字されていた。しかも、どれも出費額は安くないようだ。
「……あいつ、浪費癖でもあるのか、」
どちらかと云えば倹約気質の恭介は、領収証の束へ視線を落とし、ザイールには消費支出の指導が必要だと判断した。
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