88 / 100
第88回[利用]
しおりを挟む克衛の前職は、邏卒という、各府県に配置された巡邏の兵卒である。警察官の最下位階級であり、見まわりをすることから、のちに巡査と改称されている。個人の生命、身体の保護、犯罪の予防、交通の取り締まりなど、仕事内容は多岐にわたり、捜査活動については制限された範囲での権限しか持たない。ただし、必要に応じて、巡査の立場であっても他の刑事などと同様に捜査は可能である。
夕刻の闇市へ足を運んだ礼慈郎は、売春夫から聞きだした利用価値のある人物のもとへ向かった。廃村で誘拐された飛英は、克衛の活躍によって窮地を逃れている。鷹羽や彦野たちと作戦会議した際、個人情報の説明を省いた飛英は、まさか礼慈郎が本人と面識を持つことになるとは、思いもしなかった。
闇市の案内人は、とば口の小屋に住んでいる。こじんまりとした木造の家屋は、必要最低限の間取りしかなく、上背のある克衛と礼慈郎が一室で顔をつきあわせると、本来の広さよりせまく感じた。
「悪いな。こんなものしか出せなくて。」
茶碗と和菓子(闇市の露店で売られている小豆まんじゅう)を卓袱台へのせる克衛に、「お構いなく」という礼慈郎は、軍帽と軍刀を脇においた。天井の裸電球が、隙間風に小さく揺れている。
「ところで、おれみたいな非国民に、なんの用だい。」
突然訪ねてきた軍人に対し、克衛は(故意に)皮肉めいた発言をする。礼慈郎の表情は落ちついていたが、露骨過ぎたかもしれないと、ほんの少し反省した。克衛は、軍人の意図を察している。それを裏づけるかのように、会話の主導権をにぎっていた。
「おまえさんは、英を身請した利玄礼慈郎だな。このおれを訪ねてきたということは、甲斐性なしではなさそうだ。」
ストリップ劇場の舞台に立つ飛英を高く評価していた克衛は、青年が闇市を去るとき、名残惜しく思った。だが、キラの指示で礼慈郎の素性を調べた結果、スーツの紳士より、ずっとマシな人間であることがわかり、内心、安堵していた。
✓つづく
1
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
つたない俺らのつたない恋
秋臣
BL
高1の時に同じクラスになった圭吾、暁人、高嶺、理玖、和真の5人は高2になってクラスが分かれても仲が良い。
いつの頃からか暁人が圭吾に「圭ちゃん、好き!」と付きまとうようになり、友達として暁人のことは好きだが、女の子が好きでその気は全く無いのに不本意ながら校内でも有名な『未成立カップル』として認知されるようになってしまい、圭吾は心底うんざりしてる。
そんな中、バイト先の仲のいい先輩・京士さんと買い物に行くことになり、思わぬ感情を自覚することになって……
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる