21 / 43
第19話
しおりを挟むプルプァとリェータにすすめられた場所は、言葉どおり見事な景観だった。岩場のあいだにできた数十メートルほどの砂地に、びっしりと青い野花が咲きほこり、微かに甘いにおいが漂っている。花々を踏みつけないよう、ゆっくり歩いて散策するジェイクは、植物に埋もれて横たわる青年を発見した。
「ロンファ、こんなところにいたのか」
水色の髪は、海水を浴びて濡れている。だが、着ている麻布は乾いていた。潮風に吹かれ、ひらひらと裾が浮かびあがると、ロンファの素肌が晒された。下着は身につけておらず、あまりにも無防備な寝相に思えたが、さいわい、周囲に人影はない。ジェイクは片膝をつき、青年の太腿へ手のひらを乗せ、股のつけ根から垂れる黒い紐を見つめた。それから、形のよい性器に指を這わせ、鎖骨のあたりまで麻布のシャツを捲った。夢でみた桃色より、いくらか赤みのある薄紅の突起がふたつならんでいる。指先で乳頭を撫でると、瞼をひらいたロンファは、少し驚きの表情を浮かべ、「あっ」と声を漏らした。
「ジ、ジェイクさん……、なにしてるの……」
「触っているだけだ」
ロンファはジェイクの手を拒んだりせず、ゆっくり上体を起こした。
「ジェイクさん……、どうして……いるの……」
「花を見に来たんだ。おまえのいる洞窟へは、午後にでも行こうと思っていたが、ここで会えたな」
リェータいわく、花びらは食用らしい。ジェイクは足もとから1枚だけ摘むと、口の中へ放り込んだ。舌先で味わっていると、柑橘系の酸っぱさを感じた。ロンファも空腹なのか、花を摘んで食べた。ジェイクは海のほうへ視線を向けてから、ロンファの蒼白い顔を見据えた。
「おまえ、どうやって来たんだ」
沖合でロンファの姿を目撃したジェイクは、率直に訊ねた。洞窟から花畑まで、数十キロほど離れている。さすがに、泳いできたとは考えにくい。しかし、ジェイクの問いに、ロンファは口を噤んでしまう。急かすつもりはないが、やはり焦れったい。青年は返答に困っているのか、悩ましい表情をしている。ジェイクは質問を変えた。
「おまえはふだん、どんなものを食べるんだ」
「さ、魚とか……、海藻とか……」
「ほかには?」
「水……と、イヴの実……」
「イヴの実?」
「……小さくて甘い、……樹の実」
「そうか」
短い会話が成立すると、ロンファの頬が少し火照るのがわかった。数秒ほど見つめ合い、ごく自然に口唇を重ねる。触れるだけの接吻をくりかえしていると、「おーい!」と、プルプァの声が聞こえた。ジェイクが肩越しに振り向くと、バシャッと水の音がした。視線を戻すと、ロンファは姿を消していた。
「まるで人魚だな」
ジェイクは泡立つ海を見つめ、近づくプルプァと合流した。
✓つづく
1
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?
薬師は愛をささやく
み馬
BL
「やあ、ピエッセントリーヌ。きょうもきみは、美しい花を咲かせているね。おや、クレッセントリーア、いつもより葉っぱに元気がありませんね。待っておいで。今、きれいな水を差してあげるよ」
「おい、メルヘン薬師、現実逃避している場合か。ミルクの時間だぞ」
有能すぎて追放された薬師と、医者で助手の青年(実は異世界召喚された現代人)と、わけあり少年たちによるメディスン系ファンタジーBLです。主人公は、遙かなる異世界エージェント。心理学要素あり。ちょっと哲学。
※ 独自解釈、造語あり。
※ 登場人物(一部紹介)……トリッシュ(医者/23歳/主人公)ユリネル(薬師/27歳/受け身)グレリッヒ(庭師/46歳)フューシャ(16歳)デューイ(14歳)スフィーダ(10歳)シェリィ(乳児)
※ ただいま不定期にて更新中です。こちらの作品は[カクヨム]でも公開中です。
愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる