スーツの下の化けの皮

み馬

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スーツの下の化けの皮

第31話

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[姫季視点より]


 幸田から今まさに、ホテルに誘われた姫季だが、目の前にいる沢村は、そのことが原因でくやしそうにりきんでいた。

「……カズ、あのさ」

 このままでは何も解決しないため、姫季なりに自分の意見を述べた。

「そんなにうたがうくらいなら、本人へ確認してみろよ。一方的に決めつけないで、まずは彼女の話を聞いてから、きちんと状況を見極めたほうがいい」
「疑うもなにも、おれは見ちまったンだ。巴が、あんなにうれしそうな顔をして笑うなんて……」
「相手の顔も見たのか?」
「……見た」
「どんなやつだった?」
「けっこう年上だと思う。しかも、たぶん金持かねもち。ダークタホのスーツを着てやがった……」
「スーツ……」

 姫季は、無意識に幸田の姿が頭の片隅に浮かんだ。ダークタホとは、紳士服のブランド名である。高級素材をもちいて作られた一流のスーツは、身につけているだけで印象をアップさせてくれる代物しろものだ。生地にシルクが織り込まれているため、美しい光沢を演出し、ソフトな感触でありながら復元力にすぐれ、シワができてもすぐにもどるのが特徴だった。最高の素材を優れたデザインで仕立てるダークタホの製品は、世界で高い評価を得ていた。また、品質を保障する意味で、胸もとにブランドネームがダークカラーで刺繍されている。

 高級スーツを身につけた幸田を想像した姫季は、ゾクッと下半身が興奮するが、沢村の目があるため冷静をよそおった。

「とにかく、あした大学に行ったら、彼女に聞いてみろよ。頼むから、痴話喧嘩ちわげんかだけはするなよ」

 缶ビールをからにして気分が落ちついたのか、沢村は「そうする」といって絨毯のうえに大の字で寝転がると、そのまま眠ってしまう。学友とはいえ、部屋に泊めてやるつもりはない(それこそ微塵みじんもない)姫季は、1時間後に肩をゆすって起こした。

「……うぅ~ん、ともえ~っ」

 寝ぼけた沢村から抱きつかれそうになった姫季は、幸田の手料理を食べ損なったうらみとばかり、床に放置してある雑誌を丸めた。それから、沢村の後頭部を(そこそこ強く)パンッとたたいた。

「イテッ!? あれ? もしかして寝てた?」

 いつもの調子を取りもどした沢村は、「ごめん」と詫びた。


✰つづく
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